Vol.41 大阪府・大阪湾
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は大阪府・大阪湾のマアジ・シロギスほかをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回は関西国際空港が眼前に位置する「いずみさの関空マリーナ」を釣査!速い潮流の攻略と、それに合わせた釣り方が重要だ!ボート倶楽部2013年9月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
期待膨らむ大阪の海
東京で生まれ育った自分にとって、慣れ親しんできた海といえばやはり東京湾。釣りを通じて魅力的な部分と、そうではない部分を見ながら育ってきた。一方、慣れ親しんできたわけでもないのに「東京湾に似た海」と勝手に思い込んできた海がある。大阪湾だ。
今回、釣査隊での行き先が大阪湾に決定したとき、「東京湾に似た海」かどうかを確認できるいい機会だと、釣りとは違うもう一つの興味も楽しみに思っていた。
訪問するシースタイルのホームマリーナは、関西国際空港の向かいにある、いずみさの関空マリーナ。取材に協力してくれるロコアングラーは、九鬼正憲さんに決定した。
九鬼さんは本誌「ローカル釣り便り」の筆者の一人で、ボートフィッシングを学術的な理論から分析する頭脳派アングラーだ。実は、九鬼さんとは15年以上の付き合いで、信頼のおける釣り仲間。釣果面でも大船に乗ったつもりのまま、取材当日を待ちわびる日々が続いた。
大阪湾での一般的な釣りがどのようなものなのかを、事前情報として九鬼さんがメールでいろいろ教えてくれた。すると、その内容が明らかになるに従い、東京湾での釣りとは大きく異なっていることがわかってきた。
例えば、コマセ(撒きエサ)を使わないマアジ釣りや、人工エサをおもに使用するシロギス釣り、そして、シロギスをねらうポイントの水深が深いことなど。聞けば聞くほどに興味が湧いてきた。
取材予定日の前日まで、台風による雨と風で取材が実施可能か危ぶまれていたが、当日は天候、海況ともに回復。曇ってはいたものの、前日までの荒天予報とは異なる、穏やかなコンディションに恵まれた。
9年ぶりに再会した九鬼さんは開口一番、「小野さん肥えましたなぁ~(笑)。それにしても、釣れない時季に来てしまいましたねぇ縲怐Bまだ、イワシや小サバが湾内に入ってきていないんですよ。例年なら、もう入ってきてもいい時季なのに、今年は遅れているみたいです」
「う~ん、残念ですね~」(私)
「それに、ここ数日間は雨が降り続きましたし、釣況はかなり厳しいかもしれません」(九鬼さん)
「そんなにも雨が影響するんですか?」(私)
「大阪湾には淀川をはじめとした多くの川が流れ込んでいて、水温低下や濁りの発生など、雨の影響はさまざまなマイナス要因となって表れやすいんですよ。とにかく、海は凪なので、雨の影響を受けにくい友ヶ島方面まで足を延ばしましょう」(九鬼さん)
九鬼さんのセリフはいずれも説得力があり、釣果面で苦戦しそうなことを、このとき初めて実感した。
マリーナのロビーにて安全講習のビデオを見て、航行区域の説明を受ける。準備が整ったところでクラブ艇の待つ桟橋へ移動した。このマリーナでは、利用前にクラブ艇がすでに係留されており、下架の待ち時間がないことが大変うれしい。出航手続きから実際の出航までが非常にスムースで、桟橋からの荷物の積み込みや乗船が、素早く安全にできる。てきぱきと荷物を積み込んで出航した。
初めて利用する際には安全レクチャービデオを見るとともに、航行エリアや危険箇所についても、しっかりスタッフの指示を聞いておこう。
いずみさの関空マリーナでは、クラブ艇の利用は係留状態からスタート。荷物の積み込みも容易で、素早く出航できる。
釣り文化の違いに驚く
マリーナを出て針路を南西にとり、一路、友ヶ島方面を目指した。天候はいいものの、海の色は茶色で、雨による濁流が海に注ぎ込んだことが容易に想像できた。
航程1時間ほどで友ヶ島付近に到着したが、既に多くのプレジャーボートが先着で浮かんでいた。
ほとんどのボートがスパンカーを装備していて、関東ではなかなか見られない光景だった。スパンカーで船首を風上に向け、潮に乗せて流している。われわれのクラブ艇も同様の流し方を開始し、早速、マアジねらいのサビキ仕掛けを投入した。
オモリが着底し、イトフケを取り去るまではいいが、次に底ダチを取り直そうとすると、イトの出が止まらない。ボートの流される速さよりも、底潮のほうが速く流れていそうな状況だ。
また、アタリを待つ間も、海中のオモリが速潮によって翻弄され、その動きがサオ先に微振動となってビンビン伝わってくる。魚からのアタリのようだ。これが、以前からうわさで聞いていた友ヶ島水道の急流なのか? 思っていた以上に速い潮流に驚いた。
「ここは、3ノットくらいの潮が流れることがよくあります。でも、潮汐表の通りに規則正しく流れるので、そのことを理解していれば対応できます」と、説明してくれる九鬼さんを見てみると、早くもサオが曲がっていた。「あまり引かないから、ガシラ(カサゴ)かもしれません」と言っていたが、体高のある20センチ級のうまそうなマアジだった。
次は自分の番だ! と気合を入れるも、速潮と険しい海底地形の変化によって根掛かりが頻発し、なかなかリズムがつかめない。そんな私にも、ようやく同サイズのマアジが釣れて、ホッと胸をなで下ろしたが、あとが続かない。
それにしても、このポイントでのフネの密集度には驚かされる。潮流に乗せて流し、ポイント通過後はかなりのスピードで潮上までフネを走らせ、再び流し始める。ほかのフネが釣りイトを垂らしているすぐそばを、大きな曳き波を立てながら通過する状況に驚いてしまった。
われわれのクラブ艇を含め、周りに浮かぶほとんどのフネが悪戦苦闘する中で、コンスタントに釣果を上げているボートが1艇だけ存在した。
「あのボートだけよく釣っていますよね」(私)
「うん。おそらく、今日の状況に合ったサビキが選べているんやろうね」(九鬼さん)
関東では通常、こんなにフネが密集した状態にはならないため、釣れなければ、「今日は潮が悪い」だの「水温が低下した」だのと、釣れない言い訳を都合よく当てはめてしまうケースが多いが、このポイントのように、目と鼻の先にほかのフネが浮かび、釣れている状況を目のあたりにしてしまうと、言い訳ができない。そのぶん、自分が釣るためのヒントも周囲から得やすくはなるのだが......。
開始早々に九鬼さんがマアジを釣り上げた。このまま入れ食いモードに突入か!? と思ったが、そんなに甘くはなかった。
ロッドの曲がり具合から中アジを予想していたが、実際のサイズは20センチ級だった。なぁんだ、ロッドの曲がりは速潮の影響だったのかと、そのとき気づいた。
「記念撮影はもっと良型を釣ってから......」と思っていたのに、苦戦を強いられ、結局20センチ級のマアジで撮影することになってしまった。
13時すぎ、状況のよくないマアジに見切りをつけ、シロギスねらいに切り替えるべくポイントを移動。潮流のゆるやかな場所でシロギスねらいを開始した。驚いたのは釣り場の水深で、九鬼さんは、「大物をねらうために場荒れしていない、水深35メートル前後をねらう」という。関東では大物ねらいの際は超浅場を攻めるが、水深35メートルというのは本当に驚いた。
シロギスの活性がイマイチなのでサオ先をシェイクし、オモリで砂煙を発生させるタタキ釣法に切り替えた。大阪湾でもその効果はテキメンだった。
鏡のような海面から白く美しい本命の魚体が見えてくると、それだけで幸せな気分になってしまう。
開始早々、九鬼さんが掛けたシロギスのサイズが20センチ級の良型だったので、深場を攻めるという理論の説得力が増した。さらに驚いたのは、人工エサを使っていた点だ。生エサのアオイソメを使っている私よりも早く、人工エサで釣り上げられたことにショックを受けた......。
いずれのエサでも釣れ上がるのは、20センチオーバーの良型主体だが、「アジと同様にシロギスの活性もイマイチですね」と、九鬼さんは残念がっていた。結局、マアジ、シロギスとも、釣果的にはイマイチなまま、15時に沖上がりとなった。
アタリがあったけど、重たいだけでほとんど引かない。おかしいなぁ~と思ったら、ガンゾウビラメ。水深35メートル付近を攻めているので、この魚やクラカケトラギスが掛かりやすくなるのもうなずける。
小気味いい強いヒキに良型シロギスを確信していたら、チャリコ(マダイの幼魚)だった。成長してからの再会を祈ってリリースした。
大阪湾のシロギスが東京湾のものと違いがないか、マジマジと確認する私。違いがあるわけないか。
生きエサが海上で手に入る
2日目は生きエサを使った泳がせ釣りでヒラメをねらうことにした。前日に続いて友ヶ島方面へ向かう途中、生きエサを購入するため、岬町谷川にある「海上釣り堀オーパ」へ立ち寄った。
クラブ艇を近づけると「生きエサが欲しいのか?」と、あちらから声をかけてきた。「ボートアングラーが生きエサを入手しに来るということを先方もわかっていて、それを商売の一つとしている」と、九鬼さんが教えてくれた。これは両者にとって非常にメリットのあることで、感心せずにはいられなかった。
小アジと小サバを30尾ほど入手し、弱らぬようボートのイケスへ入れ、スカッパーで海水を循環させながら、ヒラメねらいのポイントへ。
到着したのは、九鬼さんが何度もヒラメを釣り上げている友ヶ島の南東に位置する魚礁周りだ。
実釣開始早々に、九鬼さんがカサゴを釣り上げた。潮流の速さは前日と同様で、クラブ艇はポイントをあっという間に通過してしまう。根掛かりに苦しめられ、仕掛けや生きエサをロストしたりと、四苦八苦しているうちに帰港時間に......。私は惨敗。釣果は九鬼さんが釣り上げたカサゴ数尾のみで、前日以上に残念な結果となってしまった。昔のヒット曲にある通り、大阪の海は悲しい色だった......と、思いながら、マリーナに戻ったのであった。
小アジを泳がせて掛かったのは、ヒラメではなくカサゴ。おいしい魚だが、やはり本命のヒラメを釣りたかったというのが正直な気持ちだ。
実はこの写真を撮るために、結構時間を費やした。撮影のスタンバイが整っていないときには次から次へと飛行機が飛んでくるのに、スタンバイが整うと飛行機がなかなか飛んでこない......。空港の周囲500メートル以内は航行禁止となっている。
今回、両日とも釣果的にはイマイチな結果に終わった。でも、それはもともと、初日の朝に九鬼さんが予想した通りであり、想定の範囲内。それよりも、この2日間で、大阪湾がいろいろな意味で東京湾とは異なることを確認できただけでも、自分にとっては大きな収穫で、「百聞は一見にしかず」を痛感した。
シースタイルのホームマリーナは全国に約140カ所。その数だけ、新しい感動が待っていると考えると、本当にワクワクする。まだまだ私の知らない海がたくさんあるのだ。さて、次回はどこのマリーナを釣査しようか。
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の講師を務める。著書に『必釣の極意』(舵社)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/
【今回のロコ・アングラー】
ロコアングラーとして九鬼正憲さん(53歳)。同マリーナに、愛艇〈アドリブ号〉(ヤマハYD-28)を保管する。
マリーナロビーに設置されたウェザーインフォメーション。出航当日の風向、風速のチェックも忘れずに。
今回のクラブ艇は、115馬力船外機を搭載したYF-23EX。片道1時間程度の友ヶ島方面へ足を延ばすときでも、キャビンがあるおかげで、クルージングも釣りも快適に楽しめる。
搭載されていたGPS魚探は、キャビン外からの視認性にも優れた、画面サイズが8.4インチのモデルだった。
マリーナ利用者が無料で使用できるリヤカー「シャトル君」。ロビーや駐車スペースから桟橋の近くまで、荷物類をらくらく運搬できる。これは便利だ。
YF-23EXには、スパンカーが標準装備。潮流の速いポイントで釣りを行ったが、そのありがたみを痛感することになった。
ポイント到着後、船首を風上方向に維持するため、スパンカーをセットする。これにより、船首の振れを少なくして、釣りやすい流し方ができる。
これだけボートが浮かんでいれば、ポイントを間違えることはない。ほとんどのボートがスパンカーを装備していることに驚いた。
シロギスは「地ノ島」の北側で、潮流が遅い場所を選んだ。それにしても、シロギスねらいの水深が35メートルとは驚かされる。
マアジの釣果が芳しくないので、ターゲットをシロギスに切り替え、魚探でポイント探しをスタート。「良型は深いほうにいる」という九鬼さんの発言に、「関東での良型ねらいは超浅場を攻めますよ」と私。
シロギスも20センチを超えると、取り込み時に決してムリはできない。ハリの掛かりどころを確認した上で抜き上げよう。
会話が弾むと、つい釣りの手を休めてしまう。9年ぶりに再会したので、昔話に花が咲いてしまった。
「ハイ、キスにキスしてくださ~い」という鈴木カメラマンのリクエストに素直に応じる九鬼さん。やはり関西人はノリがいいと感じた瞬間だった。
2日目は泳がせ釣りでヒラメをねらう。今年は大阪湾へのイワシの回遊が遅れているとのことで、岬町谷川にある「海上釣り堀オーパ」に立ち寄り、生きエサを購入した。
オーパで購入した生きエサは、小アジと小サバ。弱らぬようすぐにクラブ艇のイケスに移し替えた。イケス内の水がしっかり循環するように、スカッパーの栓を開けよう。
両舷からサオを出しているが、片舷側で釣りイトがフネの下に入ってしまうときは、片舷側だけからサオを出す、いわゆる片舷流しが釣りやすくなる。
友ヶ島砲台跡を海上から眺めた。今こうしてボートフィッシングを楽しめるのは平和だからこそ。二度と戦争をしてはいけないと再認識した。
帰港時はマリーナスタッフが桟橋で出迎えてくれる。舫いも取ってくれるので、とても心強い。洗艇も不要で、荷物を降ろすだけでサクッと終われる。
釣果カレンダー
大阪湾の南寄りに位置する泉南エリアは、ほぼ一年中、何かしらの魚がねらえるため、アングラーから人気の高い海域だ。特に、例年カタクチイワシの群れが大阪湾に入ってくる6月中旬ごろからは、それらを追って大型魚も大阪湾に入ってくるので、ボートアングラーのやる気に火が付き、釣り場が活気づく。もちろん、イワシを追う大型魚ばかりでなく、周年ねらえるカサゴや、最もポピュラーなターゲットのシロギスの人気も高い。
大阪湾・泉南周辺のフィールドマップ
大阪湾は湾口を淡路島によってふさがれた閉鎖的な内湾。そのため、雨が降ると多くの河川から濁った水が流れ込み、魚の活性に影響を与える。湾口の明石海峡、紀淡海峡は、潮が速いが、豊富な栄養分とプランクトンが集まり、好漁場を形成している。速い潮流に対処する必要があるので、ボートコントロールに関してはやや難しい海域といえる。今回は、いずみさの関空マリーナから出航した場合のメインポイント、友ヶ島周辺を紹介する。
「スカイゲートブリッジR」の愛称で親しまれる、関西国際空港へとつながる連絡橋は、世界最長の橋長3,750メートルを誇るトラス橋。
マリーナから徒歩3分ほどの距離にある泉佐野漁業協同組合をのぞいてみた。数時間前に水揚げされた地魚をメインに扱う、釣り人にとっては親近感の湧く市場だった。
漁協と隣接する泉佐野漁協青空市場は、アングラーならぜひ足を運んでおきたいスポットだ。当日捕れたばかりの新鮮な魚介類を、その場でさばいて出してくれる店に人気が集まっていた。
居酒屋「たかだ」で注文した料理の一部。新鮮な地魚料理をリーズナブルな価格で食べられるため、遠方からの来店客も多い人気店だ。その日の朝に獲れたばかりのシャコの塩ゆでも絶品だった。
TEL:072-463-6763
夜は地魚料理を満喫した。右端は8年ほど前、本誌に寄稿していた湟打(ほりうち)博明さん。私にとっては九鬼さんと同様、15年以上の付き合いになる、大切なボート仲間だ。
いずみさの関空マリーナ
関西国際空港の近くに位置するマリーナで、現在は約200艇のボート・ヨットが保管されている。シースタイル艇は、今回のYF-23EXのほか、ベルフィーノ、FR-23LSの計3艇を配備。マリーナから少し南下して釣りを楽しむ人や、北上して阪神湾岸エリアでクルージングを楽しむ人が多い。利用者の半数がリピーターとのことで、利用者の満足度が高いマリーナであることがうかがえる。また、マリーナ内にあるレストラン「ピッツェリア・エッセ・ディ・ピュ」も人気が高く、食事だけの目的で訪問する人も多いとか。
■交通アクセス
阪神高速湾岸線泉佐野南出口より5分
近畿自動車道和歌山線 → 泉佐野JCT → 空港連絡道(有料)→ 泉佐野ICより10分
■問い合わせ先
大阪府泉佐野市りんくう往来北6番地
TEL:072-463-0112
営業時間:9時~17時
定休日:毎週火曜日
http://www.izumisano-kanku-marina.co.jp