Vol.24 紀淡海峡周辺の谷川沖
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は紀淡海峡周辺の谷川沖 マダイ&ご当地釣法をご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回のフィールドは"高道具"というマダイのご当地釣法で名をはせる、紀淡海峡周辺の谷川沖。マダイ&ご当地釣法好きの隊長の個人的な興味で突っ走る!ボート倶楽部2009年6月号 [ 文:齋藤海仁 / イラスト:名取幸美 ]
待望のご当地釣法に挑戦!
ボートフィッシングの魅力は数あれど、ひとつのターゲットでいろんな釣り方が楽しめるのもそのひとつだろう。海岸"線"に縛られる陸っぱりの釣りにくらべれば、海"面"を自由に走り回れるボートフィッシングは水深もベイトもさまざま。アプローチのバリエーションが格段に増えるわけだから、ま、当然っちゃ当然だけど。
なかでも、圧倒的に釣法の種類が多い魚といえばマダイである。もうぶっちぎり。5回コールドの圧勝って感じだ。鹿児島から北海道まで広く分布しているとか、昔から人気があるとか、それにはいろんな理由があるだろう。でも、逆に言うと、さまざまな釣法やエサでねらえるところもマダイの人気が高い一因かも。回遊魚ほど気まぐれじゃない。かといって、根魚のように一途でもない。人格ならぬ魚格が多彩というか、こんな魚はそうはいない。
ご当地釣法フェチの隊長としては、もちろんマダイ釣りは大好きだ。てか、生まれ育った東京湾の鴨居がマダイの一本釣りで有名な漁師町で、マダイと聞けば、一緒に鬼ごっこした幼なじみみたいなものである。
地元のシャクリ釣りに始まって、コマセ釣りはもちろんのこと、ウキ流し、ウタセマダイ、ゴムカブラなどなど、これまでにいろんなマダイ釣りを経験した。それでも、ずっとやりたいと思いながら、なかなかできずにいた釣法がひとつある。紀淡海峡周辺で行われる高道具(高仕掛け)がそれだ。
というわけで、今回は隊長の独断と偏見で、待望の高道具についにチャレンジすることにした。マニアックに突っ走るけど、ご容赦を。
吉報にニンマリ
高道具でマダイを釣るなら、出航場所は大阪岬マリーナに決まり。そのホームページの「つり情報」や「オーナー」をクリックすれば、高道具で釣った大きなマダイがこれでもかというくらいに顔を出してるゾ。
大阪方面から大阪岬マリーナへは、阪神高速湾岸線泉佐野南ICを降りて20キロほど。国道26号線で深日まで行き、そこから南海多奈川線に沿って谷川港まで進む。そう、大阪岬マリーナの場所は、かの有名な谷川港のなかなのだ。
今回のロコアングラーは、マリーナの釣り名人である横月平太さんである。聞けば、横月さんはなんと年間100日以上出航するという。前日も釣りに行ったとのこと。
「マダイは釣れました?」
「ええ、2尾ほど。50センチくらいですけど」
いかにも温厚な口調で平然とおっしゃるところがまた余裕を感じさせる。ムフフ、これはイケそうですよ、と思わずニヤける隊長である。
アタリがあっても決して合わせず、ゆっくりリールを巻き続けるだけ。釣り方はタイラバーとそっくり。だが、巻くスピードはずっと遅い。あわてない、あわてない。でも、一休みしちゃいけませんぜ。
エダ間が2メートルで4~6本のエダスを付ける高道具の全長は10メートルを超えて当たり前。手前マツリを防ぐマグネット板かスポンジは必須の小道具だ。
ベイトフィッシュパターン
大阪岬マリーナの沖にはマダイのエリアが広がっている。ボートコントロールはミチイトを立てる流し釣りだ(マダイのポイントにおけるコマセ釣りとアンカリングは禁止)。
マリーナからポイントまでは20分ほどだった。水深30メートル前後の潮通しのよいカケアガリで、魚礁が点在している。このエリアで魚探をかけ、ベイトフィッシュの反応が出たところが好ポイントとのこと。なるほど、高道具釣法はベイトフィッシュパターンか。ちなみに、釣り公園「とっとパーク小島」からの陸っぱりでも、連日大きなマダイが釣れていたから、一帯のマダイの密度はかなり高いようだ。
天気は快晴。そよそよと南風が吹くナギに恵まれて、いかにも高道具日和である。仕掛けをスロー&ステディーに動かすには、ナギのほうが楽だからね。
横月さんによれば、前日に食ったのは午後の下げ潮らしいけれど、午前の上げ潮でも釣れないことはないだろう。期待に胸を膨らませつつ、実釣開始。といきたいところだが、その前に横月さんの釣り方をじっくり観察した。
手前船頭のため、横月さんは電動リールを使っている。最初は仕掛けを下ろして底ダチを取り、ゆっくり巻くそのスピードは、1......2......3......めっちゃ遅いぢゃん! 1メートルあたりおよそ10秒で、タイラバーよりずっと遅いぞ。横月さんいわく、巻くスピードはだいたいこのくらいが標準で、マダイの活性が低いときは遅め、高いときは速めがいいという。
これを手巻きのリールでやるのはけっこうツライかも。ハンドル1回転あたり70センチ巻けるリールで、えーと、1メートル10秒だとすると、1回転に約14秒か。う~ん、いったいどうやってペースをつかんだらいいんだろ......。
ラッキーだったのは、リールに0.1メートル刻みのカウンターが付いていたこと。この数字を見ながら、0.1メートルに1秒かければペースがつかみやすそうだと気がついて、仕掛けを投入してみた。オモリが着底後、0.1......0.2......0.3......とリールをゆっくり巻いて、海底から10メートルくらいまで探る。うん、これならじれったくないや。
小さくても魚礁の周辺にはしっかりベイトがいる。有望な魚礁では何度も潮回りを繰り返した。
そんなこんなで1時間が経ち、ようやく巻き上げのペースが体に染み付いてきたときのこと。フッと仕掛けの重さが消えた。オマツリ?と思ってリールを速く巻くと魚が食っている。高道具のアタリは、コツコツッときてから、仕掛けを引き込む本アタリまでなかなか食い込まないと聞いていたので、これにはアセった。
けど、あきらかにマダイのヒキではない。いったいなんの魚だろう。と思いながらミチイトを巻き終えて、仕掛けを手繰ろうとした瞬間、またフッと軽くなった。あらら、バレちゃったよ。マダイじゃなかったからよかったけれど、仕掛けの全長が長くてハリ数の多い高道具では、取り込みに要注意。肝に銘じておかなきゃ。それにしてもアタリが少ないのは、やっぱり上げ潮のせいなのか。まあ、もう少しで下げ潮に変わるから、それから本命のマダイを釣ればいいや。
と、気を取り直してリスタートしようと思った矢先だった。
いきなり西寄りの突風が吹き始めた。昼から西風が強くなるという予報はあったものの、もう「強い」なんてレベルじゃない。春の嵐といっていいくらいだ。近くにいた遊漁船もあわてて戻り始めている。これだから春はむずかしい。すかさず撤収をはじめると、その間にマリーナから「戻ってきてください」と電話がかかってくる始末。こりゃイカンとマリーナに引き返した。
モッタイナイ!
マリーナで天気予報を再確認すると、風が落ちる見込みは半々ってところ。予備日にしていた翌日はもっと風が強いみたいだ。
サオを出した時間は1時間少々で釣果はゼロ。まさかまるボウズで帰らなきゃいけないの?これじゃ取材にならないよ。「持つ鯛無い(©Mr.ツリック。5月号参照)」とはまさにこのことか!
そんなこと言ってないで、なにがなんでもなんとかしなきゃ。とはいえ、隊長にできるのは、神様に祈りつつ、風が落ちるのをじっと待つことくらいしかない――。
沖を飛んでいたウサギが少しずつ去り始めたのは、3時間ほど過ぎたころだった。イケメンハーバーマスターの正司さんの顔色をうかがうと、
「これなら出られますね」
爽やかな笑顔がキラリと光った。
今度入ったのは下げ潮のポイントだった。午前中とは打って変わってベイトフィッシュの反応が濃い。風はまだ強く、横月さんの手前船頭はむずかしそうだ。残り時間はあとわずかなので、まずは型を見るために隊長がおもに操船を担当する。
アタリはすぐに訪れた。横月さんのサオ先が叩かれている。が、残念ながら最後まで食い込まない。潮が速く、すかさず潮回りをして同じポイントに入ると、また当たった。食い込め、食い込め、と念じながら見ていると、今度はしっかり食い込んだようだ。海面に姿を現したのは、はたして、ピンクのボディーにブルーの斑点が光る本命である。
なんとかボウズはまぬがれたよ。やれやれ。
横月さんにバイトが!奇跡の大逆転なるか!?
長い仕掛けを横月さんが巧みに手繰って、無事、タモ入れに成功! ピンクの体にブルーの斑点が美しい本命だ!
回遊魚ほど気まぐれではなく、根魚のように一途でもない。適度に季節移動をして、いろんなエサを食べ、10キロを超えるほど大きく育つものもいる。釣りのターゲットとしては、マダイは実に魅力的な魚である。
「隊長の執念で釣った1尾ですねえ」
これには横月さんもうれしそうというか、苦笑いというか......。
結局、この1尾を釣った直後に潮がたるみ、ベイトフィッシュはすっかりどこかへ行ってしまい、アタリは一度も訪れなかった。まさに滑り込みのぎりぎりセーフ。隊長にマダイは釣れなかったけど、サオを出した時間が極端に短かったにもかかわらず、なんとか型を見られたし、なによりも高道具の釣法をしっかり教われたので自分的には大満足。
根掛かりが少なく、速潮にも対応できて、広くタナを探れる高道具は、けっこう効率がよさそうだ。コンディションさえよければ、大阪岬マリーナでももっとたくさん釣れるのが最たる証拠。ほかの場所でもかなりイケるかもしれないな。今度東京湾のあのポイントでも試してみよう。きっと釣れるに違いないぞ、と、釣果以上の収穫を得て、内心ムフフな今回の隊長でありました。
「だいぶ小さなマダイですねえ」と、恐縮気味の横月さん。型がそろうことも高道具の魅力のひとつで、アベレージは50センチくらいらしい。でも、数は1尾でも釣れればいいそうで、しかもこの状況じゃ見事な釣果ですネ。
【隊長:齋藤海仁(かいじん)】
急に吹き出した嵐のような強風に荒れ狂う海を見つめ、また、花粉症にも苦しみながら、風が収まることを一心に祈る隊長。午前中は1時間ちょっとサオを出しただけで、釣果はまるボウズ。はたしてマダイの顔は拝めるのだろうか......
【今回のロコ・アングラー】
横月平太(よこづき・へいた)さん
マリーナのM‐1で2年連続チャンピオンという最強ロコアングラー。横月という名前は、実はパソコン通信時代からのハンドルネームで、本誌でおなじみの小野信昭さんとも古いお仲間とのこと。どうりでよく釣るわけだ。
風流れを抑えるウェーブ・スラスター・ブレードがあり、保針性にすぐれたYF-21は、実はスパンカーのない流し釣りもやりやすい。ベイトフィッシュを探しては仕掛けを下ろすアグレッシブな高道具の釣りにぴったりだ。
標準装備のGPS魚探。GPSのマップには魚礁もけっこうインプットされているので大助かり。魚礁の周辺で魚探をかけ、ベイトフィッシュの反応でさらに絞り込むのがポイント選びの定石。
出航前の安全講習では、DVDによるレクチャーに加えて、ローカルルールや危険区域はもちろんのこと、無料で釣りの指導もしてくれる。初めての人には頼もしい限りだ。
横月さんはシースタイルのクラブ艇は初めてのため、正司さんにGPS魚探の使い方を説明してもらった。安全講習もこんな感じでていねいに説明してくれます。
YF-21のアフトコクピットは、2人並んで高道具の釣りをするのにちょうどいい感じ。隊長は横月さんの釣り方をガン見して、しっかり盗んでまいりました。
リールを巻き続ける高道具の釣りでは、電動リールがないと手前船頭は無理。今回、隊長は電動リールを持ってきていなかったので、船頭役を横月さんにやってもらったけど、さすがに手慣れたものでした。
大阪岬マリーナでは、谷川港の一角でボートを下ろす。マリーナ、駐車場と距離が近く、荷物の積み降ろしは楽々。
高道具の仕掛けはあまり市販されていないので、横月さんが作ったものをお借りした。ビニールの素材は、和歌山市にある「釣り具のマルニシ」で購入しているという。
「釣り具のマルニシ」
http://www.f-marunishi.com/index.php
午前中に出航した直後はご覧のとおりのベタナギで、イスに座ってのんびりとリールを巻けるような余裕の状況だったのに......。
今回は超マニアックな釣りをしたけれど、ドウヅキ仕掛けの五目釣りなら、いろんな魚が釣れて、気軽に楽しめるだろう。おもに根魚をねらうなら、エサはイサザがおすすめだ。特にこだわりがなければアオイソメで十分。
左右のブルワークの後端にロッドラックを設置。計6本分を確保している。大事なタックルを傷めずにすむありがたい艤装。
紀淡海峡一帯はマダイ、ハマチ、メジロの一級の釣り場。大阪湾周辺ではとびきりのポイントである。
ボートが上架されたら、船内をゴシゴシ。エサを使わないから、もともとあまり汚れないとはいえ、ボートがきれいなると気持ちがいいものだ。外側はマリーナのスタッフが洗うので、利用者は内側だけでOK。
釣果カレンダー
タチウオのポイントが最も深く、中深場までのエリアになる。マリーナの前から西側に広がる潮通しのよいカケアガリは代表的なポイントで、メバルは根、アジはカケアガリ、マダイ、ハマチ、メジロはベイトをねらう。なお、一帯はコマセ釣りもアンカリングも禁止だ。エリア南側のポイントについては、漁業者との関係上、細かい取り決めがあるため、かならずマリーナに聞いて確認すること。
大阪湾谷川周辺のフィールドマップ
北寄りの風が吹くと波が高くなりやすい。北風が吹くときは、大阪湾よりも日本海の予報が参考になるという。波高2メートルがボーダーラインとのこと。それから、漁船には決して近づかず、漁船が近づいてきたらすぐによけ、とにかく漁業者に迷惑をかけないことがこのエリアの鉄則。また、マリーナの前やエリアの東側には定置網がある。友ヶ島周辺には暗岩が多く、要注意だ。
当日の釣果。といっても、サオを出した時間は正味3時間にもならない。いつもは何尾も魚が並ぶけれど、マダイねらいの場合は型を見られれば十分でしょう。ホント、釣れてよかった。
メバルやカサゴをはじめ、エサ釣りのターゲットも多い谷川沖。エサを買うなら近所の「おおせき丸」がおすすめだ。イソメ類や冷凍エサのほか、時期によってはシラサエビも扱う。五目釣り用のオリジナルドウヅキ仕掛けも。
TEL:072-492-1215
営業時間:午前4時30分~午後8時
定休日:無休(不定休)
前泊や連釣なら、マリーナの隣にある民宿「ほうらくや」に泊まるのが便利。素泊まりもOK。アットホームな雰囲気で、時間の融通も利く、釣り人向きの宿だ。年中無休。
大阪府泉南郡岬町多奈川谷川2131
TEL:072-495-0050
さらに風が強くなった翌日に、仕方なく近くにある釣り公園の「とっとパーク小島」をのぞいてみた。大きなマダイの写真がたくさんあって、びっくりしたよ。
http://minnaga.com/totopark/
陸っぱりでマダイが釣れるとあって、平日でも満員御礼。2007年10月10日にオープンしたばかりで、軽食の配達なんかもしてくれて、すごく快適な桟橋でした(おみやげ用の生きたマダイも売ってましたぜ)。