Vol.07 神奈川県
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は神奈川県・深場釣りをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回のテーマはレンタルボートとしては激レア!?な深場釣りにチャレンジ。鬼が出るか仏が出るか、乞うご期待!ボート倶楽部2005年3月号 [ 文:齋藤海仁 / イラスト:名取幸美 ]
深場、それはロマン
釣りの魅力はいろいろだけど、ロマンはその代表格。釣り人が大物や幻の魚に惹かれるのはロマンを求めてのことだろう。広辞苑で「ロマン」を引くと、「夢や冒険への憧れを満たす事柄」とある。夢、冒険、憧れ──いい響きです。
大海原を駆けめぐるボートフィッシングはそもそもロマンに満ちているもの。なかでも断然ロマンチックな釣りといえば、そう、深場である。
カジキはどうかって?カジキ釣りもたしかにロマンだ。しかし、ビルフィッシングは読みの釣りだし、ねらいも明快。それに比べると、深場はなにが掛かるかわからないうえ、釣れる魚が一段と"非日常的"。はるか遠くの深海から鬼が出るか仏が出るかわからない釣りに、心ときめかせるのは隊長だけだろうか?
おまけに深場は味覚も魅力的だ。キンメダイ、アコウダイ、アラ、ムツといった本命をはじめ、ドンコ(エゾイソアイナメ)、スミヤキ(クロシビカマス)といったゲストも格別。慢性食糧難で水が冷たい深場の魚は、脂と栄養をしっかり貯め込んでいるから、独特の滋味がぎゅっと詰まっているのだ。
というわけで、レンタルボートで深場釣りができないかなあとずっと思っていたところ、「ボート倶楽部」の2004年12月号を見て驚いた。なんと「カートップボート・フィッシング大会 in よこすか」のレポートで、石川皓章さんがアカムツを釣っているではないか。アカムツは幻とさえいわれる深場の超高級魚。カートップボートでアカムツが釣れるんだったら、レンタルボートでもできるはず。ロマンあふれる深場釣りに、いざ出動!
200、300は当たり前
フィールドは、同大会会場である三浦半島の和田長浜周辺に決まり。レンタルボートの拠点は佐島の「湘南サニーサイドマリーナ」が近い。フィッシングガイドは、大会で石川さんを乗せた嶋村康司さんその人にお願いした。
嶋村さんは深場マスターとして知られるカートッパーである。しかも、以前深場の取材でお世話になったことがあり、実は隊長の知り合いだったりする。ま、浅場に上る夏から秋の産卵期じゃなければアカムツは厳しいけれど、"ワクワクドキドキの深場五目"ってことですぐに意気投合した。
湘南サニーサイドマリーナには朝8時に集合。佐島周辺には定置網や暗礁が多いので、安全講習を受けたのち、いつもより少し重めの荷物を積み込んで、朝9時にUF-21CC〈こんぶIV〉を離岸させた。
教わったとおりに定置網の間を通り抜け、針路を南西に取った。目指すは亀城灯台の西にある三浦海底谷だ。ミウラ・キャニオンはなだらかな沿岸に切れ込んだV字型の峡谷で、カートップボートで深場釣りができることからもわかるとおり、沿岸3マイルでも水深はたっぷりある。
密集したイナダ釣りの遊漁船団を横目に見ながら、目指すエリアへテキトーにバウを向けた。なにしろレンタル艇の魚探では届かない深場の五目釣り。やってみるまでなにが釣れるかわからないから、あくまでテキトーでいいのである。こんな釣りもたまにはいいもんだ。だいたいこのへんか、というところで、等深線を見るために持ち込んだGPSを見つめる嶋村さんに質問した。
「このあたりでどうですか」
「もう少し岸寄りですね。今、水深500メートル以上ありますよ」
え!? こんなに岸に近いのに500メートル以上もあるのと驚きつつ、岸に向かって走る。しばらくして嶋村さんがOKを出した。GPSの等深線は280メートルだという。
風は北寄り。潮は仕掛けを入れてみるまでわからない。操船を楽にするために、やはり持参したパラシュートを投入してとりあえず仕掛けを下ろしてみる。オモリは150号とえらく軽いが、そこは自由自在のボートフィッシング。アングラーが2名だからオマツリは少ないし、底ダチが取れなかったらエンジンで流す手もある。
100......200......300......。リールのカウンターが順調に増えていく。350を数えたところでようやくオモリが着底。底ダチを何度か取り直してみたものの、カウンターの数字が減る気配はない。ミチイトのフケ具合からしてもそこそこ潮が利いているようだ。
ノドグロ、出る
「アタりました」
スターンに陣取る嶋村さんが言った。見るとサオ先が大きく揺れている。その直後、隊長にもアタリが来た。いきなりダブルヒットとは幸先がいい。ここは追い食いを欲張らず、ひとまず2人とも電動リールのスイッチをON。一応、アカムツだったらうれしいなあと思って嶋村さんに聞くと、アカムツはアタリがかなりシャープで、なぜだかわからないけど、水深が100メートルと30メートルでよく暴れるとのこと。
深場初心者の隊長はアタリじゃわからないから、ヒキを楽しみにしよう。ヒットしてから魚の顔を見るまでのハラハラドキドキが長いのも深場の醍醐味だ。リールのカウンターが減るペースは投入時よりはるかに遅い。300......250......じわりじわりと寄ってくる間、隊長の脳裏に能登半島で食べたアカムツの味が蘇った。あちらではアカムツをノドグロと呼ぶのだが、表面を軽くあぶったその刺身は、口に入れた途端に甘く芳醇な脂がとろけるようにふわりと広がって、深場で一番うまい魚といわれるのも納得の絶品。『あのシアワセよ、もう一度』と心の中で必死に念じていると、なんとカウンターが100を示したころにひと暴れ。こ、これはアカムツか!? さらに50......30......何事もなくリールが止まった。仕掛けを上げると、ノドグロはノドグロでもユメカサゴ。ややこしいけど関東ではこれをノドグロという。アカムツじゃないとはいえ、本命級のおいしい魚なのでうれしいことに変わりはない。即キープ。
深場に慣れっこの嶋村さんはクールに仕掛けを上げている。獲物はオキギス(ギス)だった。
「これは小田原の高級かまぼこの原料なんです。この前、さつま揚げにしたらうまかったなあ」
いきなりのおいしい二目達成はラッキーと周辺をもう少し探ると、シロムツ(ワキヤハタ)が釣れてあっさり三目達成。やっぱり深場は釣れる。その後はシロムツばかりが続いたので、もう少し沖へ出て深い場所をねらってみることにした。
「いろんなエサを試してみるのも楽しみのひとつ」と嶋村さん。とはいえやっぱり一番は釣りたてのサバ。外道で釣れたら即おろしてエサにする。ヒラヒラするよう身をそいで、なるべく薄く作るのがコツとのこと
仕掛けを上げながら、ひとつひとつちゃんとエサを付けてサイドデッキに並べておくと手前マツリしにくい。ちなみに嶋村さんが用意したエサは、サバ、マダイ、イカ、シャケ。トラギスも初トライしたが不発(笑)
なんでも釣ってみよう!
カウンターが540でオモリが着底した。GPSの等深線によれば水深は450メートル。アコウダイが釣れてもおかしくない。いったい次はなにが釣れるんだろう。
サオ先がモゾモゾしてる。500メートルを超える深海からアタリが伝わってくると思うとやっぱりすごい。大きくはないようだが、追い食いもないので電動リールをON。約15分後に現れたのはギンメダイだった。
「ちょっと水っぽいですけど、干物にしてあぶるとうまいですよ」とさすが深場マスターの嶋村さん、よく知ってます。四目達成。
次、行ってみよう。仕掛けの上げ下ろしにかかる時間が半端じゃないから、けっこう忙しいのだ。
今度は嶋村さんだ。やっぱりサイズは小さいみたいだが、おっと、こりゃなんだァ?
「カラスザメですね」
う~む。ぬめっとした肌といい、光る目玉といい、妖しげな容姿といい、たまりません。人間の想像も及ばない姿をしている。こういう生きものを見るたびに自然の偉大さを痛感する。でも、リリース。食べられないからね。
その後、2人でユメカサゴやシロムツ、ギンメダイを追加したが、なかなか次が掛からない。1回の流しに時間がかかる深場ねらいにとって、冬の1日は短い。もはやこれまでかと思い始めたそのとき、隊長にそれまでとは異なるアタリが来た。
少しスピードを遅めにして電動リールを巻き始める。いよいよ500メートルオーバーから主役のご登場か。残りあと100メートル。けどさ、全然引かないってどういうことよ。ムツやキンメダイなら引くし、アコウダイならそこそこ抵抗があるはず。まさか外れたんじゃないだろうな。
残りあと50メートルだ。浮かばないからアコウダイじゃないのは確実。おい、リールが止まっちゃったよ。恐る恐る仕掛けを上げてみる。1本、2本、3本......。カラバリが続いて、最後の最後にヤツはいた。やった、トウジンだ! 駿河湾じゃ"ゲホウ"と呼ばれ、寿司ネタとしても珍重されるとてもおいしい魚。とがった鼻の三角頭にひょろひょろボディーは、まさに深場釣りのフィナーレを飾るにふさわしいキャラクターである。
終わってみればユメカサゴ、オキギス、シロムツ、ギンメダイ、トウジン、カラスザメと個性派の役者が勢ぞろい。深場釣りってやっぱり面白い。仕掛けの上げ下げも自分で決められるし、ミチイトをPE2号くらいまで下げれば120号クラスのタックルでも十分。レンタルボートで深場釣りをやらない手はないと思うんですが、相模湾で深場釣りにチャレンジしてみては?絶対おすすめです。
【隊長:齋藤海仁(かいじん)】
釣りの前に三崎港の朝市に立ち寄り、名物のまぐろ天ぷらソバを食らう隊長。まぐろ天はさすがの厚さで350円は激安。朝市は毎週日曜の朝5時から。寒い朝に温かいソバ、たまりません。
【ロコ・アングラー】
嶋村康司(しまむら・こうじ)さん
6年前にカートップボートの釣りに一気にのめり込み、深場を得意とする相模湾のエキスパート。「カートップボート・フィッシング大会 in よこすか」第4回優勝者で、第6回で石川さんにアカムツを釣らせた名キャプテン。
嶋村さんが大きく誘いをかける。PEラインとはいえ数百メートルにもなると多少は伸びるしイトフケも多いので、ロッドアクションを大げさにしないと思うように仕掛けを操作できないのだ。
手持ちザオの手前船頭のため、パラシュートアンカーの利用価値は大。今回は21フィート用のサイズをレンタル艇に持ち込んだ。
同じく深場に惹かれる嶋村さんとは息もばっちり。マニア?スキもの?オタク?なんとでも呼んでください。深場は男のロマン、ってことで。
【レンタルボート】
毎回大活躍のUF-21CC。同乗者のミチイトもよく見えるセンターコンソーラーはイトを立てる操船が楽。しかも、アフトコクピットが広くてアングラー同士の間隔を開けられるため、深場釣りでもオマツリしにくい。
深場のポイントは亀城根の西にある超ディープV型のミウラ・キャニオン。岸から数マイルで水深300メートルオーバーの地形はさすが日本で2番目に深い相模湾。魚探が届かなくても、ポイントは等深線である程度判断できるはず。
ユメカサゴとオキギスのダブルヒットで幸先のよいスタートを切った。
やあ、よく来たね。深場釣りでは思わずそんな気持ちになる。これはシロムツ。ワキヤハタとオオメハタの2種類がシロムツと呼ばれる。
嶋村さんの魚は、煮ても焼いても生でもうまいユメカサゴ。隊長のシロムツは塩焼きがおすすめ。深場の魚はとてもおいしいよ。
駿河湾で"ゲホウ"と呼ばれるのは、やっぱりこのクチのせいだろうか。トウジンの刺身は顔に似合わずほんのり甘い絶品の白身でした。
大物が掛かってファイト中の嶋村さん。途中でバレたが、たぶんサメだろうとのこと。
釣果カレンダー
相模湾は1,000メートル以上の水深がある日本で2番目に深い湾で、なだらかな沿岸に険しい海底谷が差し込む三浦半島側は、レンタルボートで深場を楽しむには絶好のスポット。また、夏から秋にかけては黒潮の影響を強く受けてシイラやカツオなども回ってくる。砂地に大小の岩礁帯が点在する浅場は魚種が豊富。深場から浅場まで、いろんな魚がねらえる貴重なエリアだ
相模湾東部のフィールドマップ
南に開けた湾の東岸にマリーナがあるため南~西の風が吹くと荒れやすい。春先は特に西風が吹く日が多いという。また、周辺には定置網や暗礁があり、亀城礁近くの避行エリアをはじめ、細かいローカルルールもあるので、初回に必ず受ける安全講習(受講料1万円)は極めて重要だ。周辺海域の注意事項等をしっかり学べてとてもありがたい。
当日の主な釣果。ユメカサゴ、シロムツ、ギンメダイの三役揃い踏み。これにオキギスとトウジンで、なんとか五目は達成できました。
三崎の朝市はソバがうまいのはもちろんだけど、ムツやらスミヤキ(クロシビカマス)やらメダイやらがずらりと並んでいて、気合がたっぷり注入されました。
マリーナに行く途中にエサを買うなら、この「徳丸三浦林店」が便利。
生きエサから虫エサまで豊富なラインナップ
営業時間:平日=5~19時(昼休みあり)、土曜、祝前日=オールナイト
定休日:火曜日
住所:神奈川県横須賀市林2丁目9-12
TEL:0468-55-6117
レンタル艇には23ルネッサもある。予約に空きがあることも多いらしく、パラシュートアンカーを使うんだったら、こちらに乗ってみるのもいいかもしれない。
湘南サニーサイドマリーナ
快適なクラブハウス、シャワー、レストラン、そして夏はなんと海辺のプール(有料)まであり、設備が大変充実している。目の前が豊かな海で魚種は豊富。都心からも車で1時間強とアクセスもよく、ロケーションのよさはピカイチ。レンタルボートのユーザーはほぼ釣りが目的というのも納得。旬の釣り情報も入手できる
■交通アクセス
車利用=横浜横須賀道路の衣笠ICから約8km。林交差点を経由、佐島入り口を左折して約5分。または横須賀ICから湘南国際村を経て国道134号線を南下し、大楠小学校入り口を右折して約5分。横須賀ICからだと約12km
■問い合わせ先
住所:神奈川県横須賀市佐島3-11-33
TEL:046-857-2700
URL:http://www.sunnyside.co.jp/
レンタル艇はUF-21CCの〈こんぶ〉、23ルネッサの〈あさり〉、そしてウェイクボード仕様のSRV〈ひじき〉の3艇。保管艇は全艇陸上保管で、前日の下架もOK。
佐島周辺の海を知り尽くした島田勝巳(しまだ・かつみ)さん。とても気さく、かつおおらかな人柄で、イザというときには頼りになるやさしきハーバーマスターだ。
今回使用したタックル
サオはややオモリ負けするくらいのほうが食い込みがよく、バラシが少ない。リールはパワフルでイト巻き量に余裕があるタイプを。ミチイトはあまり細くすると耐久性が悪くなるので嶋村さんはPE5号を選択。五目釣りなので、根掛かりが少なく、タナを広く探れる定番のドウヅキ仕掛けを使った。水中ライト、パニックベイトなどの発光アイテムは効果大。ただし、サメの猛襲に合ったら外すという。
【ROD】
ダイワ「HZ先鋭剣崎DEEP 150号-200」は、手持ちの深場釣りにもピッタリの、軽量で感度の高い深場専用ロッド。ソリッドティップで食い込みもよく、掛けてから粘るアクションが特徴。オニカサゴやイカ釣りにも使える、ボートフィッシングに便利な1本。
●全長:2.00m
●継ぎ数:2本
●自重305g
●オモリ負荷:120~250号
【REEL】
ダイワ「タナコンブルS600W」は、瞬間最大巻き上げ力45kgを誇る中型電動リール。やはり深場ではこれだけのパワーがあると安心。
●イト巻き量(PE):6号-500m、
8号-300m(5号は600m程度)
●自重:1,255g
●瞬間最大巻き上げ力:45kg
●常用巻き上げ速度(1kg負荷時):85m/分
【BATTERY】
深場釣りを1日楽しむには大容量タイプがほしい。ダイワ「エナジーパック17000C」をチョイス。
●容量:17Ah
ロッドホルダーがないレンタル艇では手持ちの釣りがメインになるので、深場の釣りとはいえ、できるだけライトなタックルを使いたいところ。
ミチイトがこのくらい出るのは当たり前。深海と呼ばれるのは水深200メートル以上。太陽の光がほとんど届かない暗黒の世界だ。