Vol.48 宮城県・松島湾
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は宮城県・松島湾のマガレイ、アイナメほかをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
日本三景の一つに数えられる松島湾にほど近い、「北浜マリンベース」を釣査!ボート倶楽部2015年6月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
日本三景・松島エリアのホームマリーナ
松島(宮城県)といえば日本三景の一つとして知られ、天橋立(あまのはしだて)(京都府)や宮島(広島県)と並んで有名な名勝地。国内だけでなく海外からの観光客も多く訪れる、国内屈指の観光スポットだ。
松島エリアは、昨年だけでも年間約500万人の観光客が訪れ、その多くは風光明媚(ふうこうめいび)な松島湾に浮かぶ島々を展望台から眺めてみたり、あるいは観光船に乗って間近で見たりして、多島海の美しさを満喫しているという。
そんな超一級の観光地の海に、自身が操船するボートを浮かべたらどんなに素晴らしいことだろう?
ヤマハマリンクラブ・シースタイルなら、ホームマリーナが全国約140カ所にあるため、日本三景・松島エリアにも必ずやホームマリーナが存在するに違いない。そう思って調べてみると、やっぱり見つかった!ちょうど、松島湾からほど近い塩釜港にあるホームマリーナ、北浜マリンベースだ。
マリーナのウェブサイトでいろいろと情報収集すると、松島湾内のクルージングはもちろんのこと、湾から出れば黒潮が流れる豊かな海が広がり、ボートフィッシングも盛んなようだ。
また、東京から塩釜までは、新幹線とレンタカーを乗り継げば約3時間。このアクセスのよさなら、東京からの日帰りでも、松島湾周辺でのボーティングも可能だ。
さらに、東北地方といっても太平洋側なので冬場も雪が少なく、周年ボートフィッシングが楽しめる。これはもう、春が来る前でも行くしかない!というわけで、2月下旬に釣査することに決定した。
使用したクラブ艇はヤマハYF-23。あらゆる釣りに対応できる使い勝手のいいボートだ。現在はヤマハYF-24に代替えされており、新艇にはレーダーも搭載。このほかヤマハYF-21も配備。
クラブ艇には8.4インチのGPS魚探が装備されていた。航行可能なルートを知る上で有効な手掛かりとなるように、GPSプロッターには過去の航跡が残されている。
マリントイレが設置してあり、家族連れやカップルでも安心して利用できる。
同マリーナのオリジナル製品「デッキセンターテーブル」と「ベンチシート」が装備されていた。使い勝手がよく、代替え艇のYF-24にも搭載されている。
スパンカーも装備されており、使いこなせば流し釣りを行う上で強力な武器となること間違いなし。マリントイレとともに、YF-24にも搭載。
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、FURUNOフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の講師を務める。著書に『必釣の極意』(舵社)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。
【今回のロコ・アングラー】
ロコアングラーとして取材に協力してくれた山本知久さん。北浜マリンベースでボート免許講習などの、ソフト面を担当されている。
松島湾の美しい景色と地元の味を堪能
北浜マリンベースに到着する前に陸から松島湾を眺めたが、島々が織り成す景色は本当に美しい。あの松尾芭蕉がこの地を訪れた際、その景色の美しさに句が思い浮かばなかった、という逸話もあるほどだ。
今回、ロコアングラーとして取材に協力してくれたのは山本知久さん。同マリーナで免許教室や操船講習など、主にソフト面のサービスを担当している。
「実は4年前の東日本大震災によって、変わってしまった景色もあるんですよ」
と、震災当時の様子を聞かせてくれた。
「当マリーナがある塩釜港は、松島湾の多くの島々が、沖から来る津波を遮ってくれたので、比較的被害が少なく済みました。それでも、マリーナの保管艇は数多く流され、大変でした」
山本さんは8年前から同マリーナで働いているが、前職では神戸に住み、なんと阪神淡路大震災にも遭遇しているというからビックリ。二つの震災を実体験しているという話を聞いて驚いてしまった。
そんな話を伺いつつ、出航準備を整えてマリーナ内の桟橋へ向かったが、南西からのやや強い風が吹いている。
「この風では松島湾から外海へは出られません。湾内だけとなりますが、どうしますか?」(山本さん)
「湾内だけでも、出航したいです!」(私)
出航と同時に、山本さんの松島湾観光ガイドが始まった。
「あそこに見えるのが、海上保安庁の第2管区海上保安本部です。あれがマリンゲート塩釜で、遊覧船の発着場となっています。あの建築工事は魚市場です」
と、次から次へと山本さんの説明が進んでいく。あまりにも説明が流暢(りゅうちょう)なので、
「ガイドとしてやっていけますね」
と冷やかすと、
「松島湾内は穏やかな海ですが、地形が複雑で浅瀬も多いので、ビギナーの方や初めてご利用されるお客さまからは同乗してほしいというリクエストも多く、その都度、クルージング観光ガイドをやっていますから」
と、照れくさそうに答えてくれた。確かに、水深10メートル未満の浅い場所が多く、小さな島や岩も多いので、航行には注意が必要だ。
「シースタイル会員さまには、GPS画面に残っている過去の航跡に沿って航行してもらうようにお願いしています」
なるほど~、そうすれば確かに安心だ。そんなアドバイスを織り交ぜながらの観光ガイドはとても楽しい。
「ちょっと釣りをしてみましょうか?ここは、過去にアイナメをはじめとするロックフィッシュが釣れた場所です」
待ってました!とばかりに私は仕掛けをセットし、はやる気持ちを抑えつつ、第1投。水深が浅いために海藻類も多く、さらに底質が岩礁なので根掛かりが頻発するが、いかにもロックフィッシュが釣れそうなポイントだ。
魚からのアタリを求め、実績ポイントを転々と移動するが、一切アタリが届かない。
「あっ、水温が4度しかない......。この水温での釣りはかなり厳しいかもしれません」
山本さんがGPS魚探を見て、驚きながらつぶやいた。
松島湾内ではロケーション抜群のところで釣りイトを垂らした。釣果には恵まれなかったけれど、景色は堪能できた。背後に写っているのは鐘島(かねしま)。
「湾の外へ出ないと、この低水温からは逃れられませんが、今日の風では無理ですね~」
と、申し訳なさそうに続ける。私自身は釣れないことをあまり気にしていなかったが、山本さんはとても恐縮していた。
正午前、昼食をとるため寒風沢島(さぶさわじま)へ向かった。というのも、そこの外川屋(とがわや)という民宿に昼食の予約をしていたからだ。
岸壁に着岸して上陸すると、徒歩30秒ほどのところに外川屋があり、
「お待ちしていました。寒かったでしょう」
と、おかみの外川栄子さんが、われわれ一行を暖房の効いたお座敷へと案内してくれた。
松島名物のカキやハゼなど、地元で獲れる新鮮な魚介類を使った料理がテーブル狭しと並べられ、素材の味を生かした素朴な味付けに舌鼓を打った。
空腹が満たされたあとは、再び湾内クルージングを楽しむことにした。お地蔵さまが立てられた地蔵島や五大堂がある小島など、人間による建築物がある島もあれば、逆に鎧(よろい)島や兜(かぶと)島のように、風化浸食作用により作り出された島も多く、見どころが満載だ。そんな松島湾のクルージングをゆっくりと楽しみ、15時にはマリーナへ帰港して1日目が終了した。
昼食のために上陸する寒風沢島の近くでも釣りイトを垂らしたが、やはり不発だった。
この島は伊達政宗がうたげを開いたことで知られる在城島。島々の名前には実にさまざまな由来があり、山本さんの的確なガイドのおかげで松島湾を満喫できた。
寒風沢島の岸壁に着岸するところ。クラブ艇に備え付けのフェンダーを接岸側(左舷)に集め、岸壁と艇体が接触しないように係留する。奥に写っているのが、昼食を食べた外川屋。
外川屋での昼食は、地元の食材を使った素朴でおいしいものだった。1人1,500円の料金がウソのような充実ぶりで、絶対にオススメの食事どころだ。前日までに予約が必要
外川屋 TEL:022-369-2359
おいしい料理がリーズナブルな料金で楽しめる、外川屋のおかみさんと記念撮影。実は山本さんも外川屋は初めてで、「こんないい食事どころがあったとは!」と、驚いていた。
渋い状況に苦戦 再訪を誓う
翌朝、空は曇っているものの風は弱く、今日こそ湾外に出られるのでは?と、期待に胸を膨らませてマリーナに向かった。
「現時点では無風に近いのですが、昼前から南風が強まる予報なので、早めに沖合へ向かいましょう」
と、山本さん。
1日目はあんなに楽しんだ湾内の景色だったが、湾外に出られるとなると、目線は湾口の先に広がる沖合に注がれ、湾内の島々には向けられなくなる。不思議なものだ。
湾内を走り抜け、20分ほど走った沖合には潮目があり、トリも飛んでいた。
何か魚がいるのかなぁ~、なんて見ていると、山本さんが、
「アザラシだ!!」
と叫んだ。
指をさす方向を振り返ると、海面からアザラシが顔を出し、こっちを見ている。あまりにも突然の出来事であり、アザラシもこっちを向いたままジッとしている。写真撮影を忘れ、
「オーイ!」
と、アザラシに向かって手を振ってしまった。一度潜ったかと思えば再び顔を出し、やはりこっちを見ている。
突然の出来事に驚いたのはわれわれではなく、むしろアザラシだったに違いない。なので、これ以上プレッシャーを与えないようにボートをゆっくり進めて、再び沖合を目指した。
すると、穏やかだった海は次第に波が立ち始めた。目指している大型魚礁のポイントまで残り5マイルとなったところで、
「ポイントに到着しても釣りができる状態ではないはずです。無理せず、戻りましょう!」
と、山本さんが悔しそうな表情で決断した。
あと少しのところまで来ていただけに残念だったが、無理は禁物。そこから5マイルほど陸側に戻ったところにある、「大根」というポイントへ向かうことにした。
ポイントに到着すると雨がぱらつき始めたが、沖合に比べれば波もないので、てきぱきと仕掛けを準備し、投入した。
2日目は前日より穏やかな予報だったので、張り切って出航した。好条件だったら湾外の大型魚礁ポイントへ向かえるので、ワクワク感が止まらなかった。
風波の影響で大型魚礁行きを断念し、「大根」まで戻ることにした。5マイルほど戻るだけで無風になってしまうことに驚いた。
「大根」では魚探を見ながらポイント移動を繰り返すため、シーアンカーを使わず、トモ流しで対応した。風が弱いとボートコントロールも楽々行える。
「ここはマリーナから比較的近いですが、いろいろな魚がねらえる人気のポイントです」
と、山本さんが聞かせてくれたが、一向にアタリが届かない。
湾外に出たにもかかわらず、前日と同じようにアタリのない状況で、艇上はやや重苦しい雰囲気となった。
魚探を見ながら何度もポイント移動を繰り返したが、状況は変わらない。数日間続いた荒天による底荒れが原因なのか?釣れない理由を頭でいろいろ考えながら、仕掛けを四方八方へ投入し、広範囲を探ってアタリを待った。
すると、2時間ほど粘ったかいがあり、山本さんが25センチほどのマガレイを釣り、続けて私も小さなアイナメをゲットした。
待望のマガレイを山本さんが釣り上げた。低活性時の貴重な1尾のため、慎重にタモ取りした。山本さんに安堵(あんど)の表情が見えたので、今回の取材では相当なプレッシャーを感じていたのかも。
「大根」の岩礁地帯では、ブラーでアイナメが釣れた。サイズ的には不満が残るものの、低活性時に掛かってくれた貴重な1尾なのでとてもうれしかった。
互いに安堵の表情を浮かべ、「さぁこれからだ!」と気合を入れたが、再び沈黙の海となってしまった。
13時すぎ、西から真っ黒な雨雲が近づいてきたので、涙をのんで沖上がり。マリーナに戻った直後、案の定、雨は本降りとなった。
「あのとき、帰港を決断して正解でしたね」
と、私は本降りを免れたことを喜んだが、山本さんは本来の釣りを紹介できなかったことが悔しかったのか、表情がやや曇っていた。
今回は天候と釣果の両面で悩まされたが、そんな状況下にあっても、的確な判断で安全にボーティングを楽しませてくれた山本さんには、とても感謝している。それに、松島湾の美しい景色とおいしい郷土料理に癒やされ、旅情を味わえたので十分満足できた。
震災から4年の月日が流れ、観光客も震災前に近いくらいにまで戻ってきたと、土産物店で話を聞いた。やはり松島湾は日本三景の一つであり、それだけ観光客が集まる魅力的なエリアなのだ。
その松島湾の魅力をさらに味わえるのが、シースタイルを利用したボーティングであり、北浜マリンベースは絶対オススメのホームマリーナだ。
東京から3時間ほどで到着できるという利便性のよさも魅力だし、大型魚礁ポイントに再チャレンジするためにも、ぜひ再訪したいと思っている。
激渋の状況の中、山本さんが執念でマガレイを釣り上げた。この1尾で勢いづき、あとが続くかと思ったら、再び沈黙の海に戻ってしまった。
山本さんが釣り上げたマガレイ。尾ビレの付け根くらいから縁に沿って黄色っぽいのがマガレイの特徴だ。
マリーナ内には釣りコンテストの釣果画像が掲示されていた。魚種が豊富で、どの魚もサイズが大きく、また量も釣れていた。やはり本来は釣れる海なのだ。
釣果カレンダー
名物にもなっている松島湾内のハゼ釣りは、水温が高くなる初夏から秋まで。湾外に行けば周年多くの魚をねらえる。特に6月から11月までの間は何でもねらえると言っても過言ではないほど、魚種が豊富だ。また、魚影も濃いので大釣りも期待できる。それでも、今回のように条件が合わなければ貧果に終わることもあるので、自然相手の遊びであることを踏まえた上で挑んでいただきたい。
北浜マリンベース周辺のフィールドマップ
仙台湾の沖は、寒流と暖流が混じり合う世界でも有数の漁場として知られ、カジキ釣りでも有名だ。マリーナから20マイルほどのところにある「大型魚礁」ではカレイ釣りが盛んで、魚影が濃く人気のポイント。また、マリーナから10マイルほどのところの「大根」は、青ものの回遊をはじめ、マダイやロックフィッシュなど、さまざまな魚種をねらえる人気の釣り場。松島湾内でも、水温が高い時期にはハゼやロックフィッシュをねらえる。
タックル類や仕掛け、エサなど、品ぞろえが豊富な現地の釣具店「みなとや」。北浜マリンベースからクルマで約5分
宮城県塩竈市北浜2-11-15
TEL:022-366-3709
松島湾は全国でも有数のカキの生産量を誇り、ノリの養殖も盛んだ。カキ棚やノリ網が多いので、航行には細心の注意を払い、漁具に近づかないようにしよう
松島湾内で人が生活する島には、ライフラインである電話線や水道管を、海中に設置してある。高圧線の下の三角形の看板がパイプ設置を示すものなので、アンカリングは控えよう
地蔵がまつられている地蔵島。観光船のクルージングコースになっている
長年の風化浸食作用によって現在の形が作られ、今もなお変化を続けている島々は、何度訪問しても目新しい発見がありそうだ。そんな島々を間近で見られるのも、ボートならではの楽しさだ
観光スポットの一つ、五大堂。陸上には多くの観光客が見えたが、海側から眺められる点も、クラブ艇を利用するメリットの一つ
北浜マリンベース
大型のサービス工場を備え、整備や艤装にも強いマリーナ。ビギナー向けの操船講習や釣りセミナー、スタッフ同行サービスなど、ソフト面のサービスも充実しており、利用者のマリンライフを積極的にサポートしている。宮城県水難救済会 塩釜救難所としての活動をはじめ、多くの公的活動も行う。
陸上保管と係留保管のどちらにも対応している、宮城県最大規模のマリーナ。
専務取締役の鈴木雅己さん。ボートフィッシングでマリン事業を盛り上げていこうと、とても熱心な方だ。
今回使用したタックル
水深40~50メートルの大型魚礁付近でカレイ類をねらうためのロッドは、調子が8:2で長さ1.6メートル、オモリ負荷25~60号のライトゲームロッドを用意。手返しのよさを考え、小型電動リールをセットした。また、やや水深が浅いポイントでのロックフィッシュねらいでは、長さ1.8メートル、オモリ負荷8~20号のライトゲームロッドを使用。キャスティングにも対応できるように小型スピニングリールをセットした。
左から、カレイねらいのために用意したロッドに小型電動リールをセットしたものと、ロックフィッシュねらいのために用意したスピニングタックル
今回用意した仕掛け類は、カレイ用の市販仕掛けとオモリ、ロックフィッシュ用のブラー。エサは万能に使えるアオイソメを用意した