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ヤマハ発動機株式会社 Revs Your Heart

ヤマハマリンクラブ・シースタイル

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Vol.39 福島県・いわき沖

全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は福島県・いわき沖のアイナメ・ヒラメ・マダイほかをご紹介。

この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。

今回は東日本大震災で大きな被害を受けたにもかかわらず、震災以後にシースタイルのホームマリーナとなったボートショップ海(KAI)を釣査ボート倶楽部2013年3月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]

震災後のスタート

東日本大震災によって甚大な被害が出た東北地方の太平洋沿岸地域では、復興のためのさまざまな活動が行われていることを、テレビやインターネットなどを通して知ることができる。復興の進行具合は人によって感じ方が異なるだろうが、私は、震災に遭われた方々の余暇の過ごし方が、震災発生以前の状況に近づいたかどうかが、一つの目安だと思っている。
一方、被害を受けなかった人々も、震災直後は津波に対する恐怖心や、この状況下で自分たちだけが遊ぶことが申し訳ないと思う気持ちから、海への足が遠のいたり、自粛する動きもあった。また、他方で、経済の衰退を懸念し、自粛はよくないとする考え方もあり、賛否両論さまざまな意見が飛び交った。
では、遊びを受け入れるインフラ側は、実際のところ復興が進んでいるのであろうか。シースタイルを例に取っても、震災後に営業停止を余儀なくされたホームマリーナが数カ所あり、いまだに再開できていないところも存在する。
そんななか、甚大な被害を受けたにもかかわらず、震災後に新しくシースタイルを導入し、営業を始めたホームマリーナがあるという情報を聞きつけ、今回の釣査隊の訪問先に選ばせていただいた。その場所は、震災による直接の被害だけでなく、原発事故の影響も受けている、福島県いわき市にある「ボートショップ海(KAI)」だ。
訪問する道中に目にした、いわき市周辺の光景には、まだあちらこちらに津波の爪痕が見受けられ、少し胸が締め付けられる思いがした。ところがマリーナに到着してみると、震災の被害が感じられないほどキレイに整備されていて、正直いって驚いた。われわれの到着を笑顔で迎えてくれた代表の水野恵一郎さんの、「ようやく、ここまでこぎつけました」と発した言葉と表情からは、苦労のなかにも再開できた喜びが感じられた。
クラブハウスでいろいろお話を伺うと、震災時の大きな揺れ、津波による恐怖、そして丘の上から津波の様子を眺めていた従業員から「社長はてっきり流されてしまったのかと思いましたよ」と言われたことなど、話を伺っている私まで目頭が熱くなってしまった。
それでも水野社長からは、「落ち込んでいても始まらない。この現実を受け入れることが再スタートの第一歩となる」という、力強い言葉を聞くことができた。

噂にたがわぬ魚影の濃さ

今回の釣査でロコアングラーを引き受けてくれるのは、当マリーナにヤマハYF‐24を保管する片寄康宏さんと、釣り仲間の齋藤大二さん。もともと仕事上のつながりもあったお二人だが、齋藤さんのボートが津波で流失してからは、天気さえよければ毎週のように片寄さんのボートで一緒に釣行するようになったという。
いろいろお話を伺いたかったが、午後から風がやや強まるという予報だったので、出航を優先し、続きは後ほど伺うことに。小雨交じりの曇天だが、それがかえって釣れそうな気配にも思えてしまい、風の吹き始めが少しでも遅れてほしい......と念じながら、塩屋埼沖のポイントを目指した。
到着したのは、塩屋埼から東南東1.2マイルに位置する、「浅深礁」という名のポイントで、地元のボートアングラーからの人気が高い。魚探画面には険しい海底起伏が映され、いかにも根魚が釣れそうな雰囲気がにじみ出ていた。
持参したシーアンカーを投入し、パラシュート部分が潮をはらんだところで実釣スタート。すぐに片寄さんのサオが曲がり、ゴンゴンとサオ先をたたきながら上がってきたのは、なんと、40センチ級のアイナメ。いきなり良型の登場に気を取られていたら、私のほうは根掛かってしまい、悪戦苦闘。回収に苦労しているうちにも片寄さんが再び同サイズを追釣し、齋藤さんはさらに大きな45センチ級を釣り上げた。
絶好調の2人に追い付こうと必死な私にヒットしたのは、30センチ級のソイで、これまた東北らしい魚なので、とてもうれしい。
アイナメがコンスタントに釣れ続けたので、次なる流し替えではコースを少しずらし、先ほどよりも海底起伏が険しくないポイントを攻めることにした。ここで片寄さんが、25センチ級のマダイを釣り上げた。
「よーし、次は自分の番だ!」と心のなかで気合を入れたが、ちょうどそのころから風が強まり始め、予報よりも早い海況悪化により、安全を最優先に考えて沖上がり。正味で1時間ほどの釣りだったが、根魚を中心としたすばらしい釣果に恵まれ、豊かな福島の海を実感できた。
沖上がり後、魚影の濃さに感心している私に対して片寄さんが、「根魚は年中こんな感じで釣れますが、青ものやマダイに関しては、少し時期が遅かったかもしれませんね」と、少し残念そうな表情でつぶやいた。
「でも、明日出航できればヒラメは釣れますから、必ず!」と、齋藤さんが自信満々に聞かせてくれ、翌日に期待することにして、1日目は終了した。

釣査隊初の女性ゲスト

翌朝、マリーナに集合した時点では、まだ昨日からの北風が残っていた。仕方なく、風が収まるまでの間に、近場の観光地を巡ることに。向かったのは、塩屋埼と三崎公園。どちらも海が眺められる場所で、風波が弱まれば、すぐにでもマリーナに戻るつもりだ。
塩屋埼灯台は、「おいら岬の灯台守は縲怐?」の主題歌で知られる、映画『喜びも悲しみも幾歳月』の原案が生まれた場所だ。また『みだれ髪』という歌をうたった、美空ひばりの歌碑も立てられていた。
三崎公園は小名浜港近くの岬に立地しており、海上に突き出る形で造られた展望橋から眺める太平洋は絶景だった。わんぱく広場にある、全長74.8メートルの巨大ローラーすべり台で大人げなく遊んで時間をつぶしているうちに、心なしか風が弱まり始めた気がしたので、マリーナへ戻ることにした。
この日も片寄さんと齋藤さんがロコアングラーとして協力してくれるが、さらに、釣り仲間の平井真理さんもクラブ艇に乗船してくれることになった。本連載では初めての登場となる女性アングラーの協力に、釣査隊の隊長である私はよろこびの表情を悟られないようにするのが精いっぱいだった。
午前10時すぎ、風が弱まったことを確認してもやいを解いた。目指す釣り場は、三崎公園の東南東に位置する「エノモリ」という有名ポイント。早速、前日と同様に一つテンヤ釣法で実釣をスタートしたが、入れ食いだった前日とはうって変わって、一向にアタリが届かない。
1時間以上経過しても、釣果は片寄さんが釣ったアイナメ1尾と、真理ちゃんが釣ったショウサイフグのみ。釣れないながらも、女性が1人乗船しているだけで、船上の雰囲気がとても明るく、和やかになるから不思議なものだ。そして、齋藤さんが発した「いまはちょうど潮止まりの時間なので、アタリがないんだと思います」という言葉を、だれもが信じてやまなかった。
ところが、潮止まりの時間帯を大きく過ぎても一向にアタリが届かないので、ダメ元で前日に好調だった浅深礁へ行ってみることにした。

みなさんも、いわきの海へ

このポイント移動が功を奏し、釣況は一変した。理由は不明だが、前日と同様に次から次へとアイナメが釣れ、齋藤さんは予告していた通りにヒラメを釣り上げ、片寄さん、真理ちゃんもすぐ後に続いた。
ヒラメを釣っていない私は、一発逆転をねらうべく、一つテンヤからインチクに換え、海底付近をたたきながら大ビラメをねらった。根掛かりに苦労しつつようやく掛けたのは、ヒラメではなく、2キロ級のマダコ。想定外の獲ものだったが、「さすが小野さん、見せ場をつくってくれる!」と、冷やかされ、船上は大いに盛り上がった。

その後、釣果にマダイも加わり、イケスのなかは龍宮城のごとく、タイやヒラメが舞い踊る、ものすごい状況となった。
すでに釣査的には十分過ぎるほどの魚を釣り上げ、釣果面では大満足していたが、海上でのこの楽しい時間をもっと過ごしていたい......、という気持ちとは裏腹に、帰港時間の午後4時が迫ってきた。
マリーナへ戻る際、舵を握っていた齋藤さんが、「実は私、このボートと同じYF‐23を新艇で購入したのですが、納艇から2週間もたたないうちに、震災の津波で失ってしまったんです」と聞かせてくれた。
「えっ、そんな......」。気の毒としかいいようがないその事実に、私は言葉を失った。でも、片寄さんが、そんな境遇にあった齋藤さんをマイボートのクルーとして快く迎え入れ、毎週のように一緒に釣りを楽しんでいる。そんな現在の状況を見るかぎり、齋藤さんはボートは失っても、お金では買えない幸せを手に入れたのだと思う。そんな姿を見ていたら、不謹慎ながら「災い転じて福となる」と思わずにはいられなかった。
ボートショップ海の水野社長が言っていた、「落ち込んでいても始まらない、この現実を受け入れることが再スタートの第一歩となる」という前向きな考え方に呼応するかのように、保管オーナーがボート遊びを再開し、震災以前の余暇を取り戻しつつある現在の状況を見て、少しずつではあるが、確実に復興は進んでいると実感できた。
私自身は大して力になれないが、今回の取材を通じて、これだけは声を大にして言いたい。福島の海は魚影がすこぶる濃く、ほかでは決して得られないような釣果も十分に期待できます。みなさん、ぜひ足を運んでみてください!

隊長:小野信昭(おの・のぶあき)

【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】

1963年生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の講師を務める。著書に『必釣の極意』(舵社)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/

今回のロコ・アングラー

【今回のロコ・アングラー】

取材に協力してくれたロコアングラーの片寄康宏さん(右)と、釣り仲間の齋藤大二さん(左)。

釣果カレンダー

釣魚カレンダー

東北地方における代表的なターゲットのアイナメやソイは移動が少なく、根に付く魚なので周年ねらえる。アジ、サバ、青ものなどは夏から秋にかけて、カレイやヒラメは晩秋から春先までがシーズンとなる。マダイは水温が12度以上でないと活性が極端に落ちるためねらうのが難しくなるが、12度以上のシーズンには活性が高く、その魚影の濃さとあいまって、釣りやすいターゲットになる。

いわき周辺のフィールドマップ

いわき周辺のフィールドマップ

福島県いわき市の沖合は、黒潮と親潮がぶつかる好漁場として、古くから漁業が盛んに行われてきたエリア。しかし、東日本大震災以降は福島第一原発の事故による放射性物質の流出により、漁業が大幅に自粛されている。それがどう影響しているのかは不明だが、プレジャーボートによる釣りにおいては、震災前とは比較にならないほどの好釣果に恵まれている。

ボートショップ海(KAI)

福島県の県南にあたるいわき市の江名港に、地域造船業の集合体として約45年前に設立された大起造船工業が母体となり、現在はプレジャーボートの販売、ボート保管、メインテナンスを主とした事業を展開している。東日本大震災による津波で甚大な被害を受けたが、がれきやごみの地道な撤去や清掃活動から、昨年ようやく通常の営業にこぎつけた。

■交通アクセス
常磐自動車道いわき湯本インターから約20分

■問い合わせ先
福島県いわき市江名東町1番地
TEL:0246-55-7236
営業時間:午前8時30分縲恁゚後6時(平日)、午前8時30分縲恁゚後5時30分(土日・祝祭日)
定休日:毎週月曜日(祝祭日の場合は火曜日)
http://www.boat-kai.jp/

今回使用したタックル

マダイねらいで発展してきた一つテンヤ釣法は、さまざまな魚が釣れることでも知られている。今回キャッチしたマダイ、アイナメ、ヒラメ、ソイなどは、いずれも一つテンヤ釣法用のスピニングタックルでねらえる。今回は80グラムを超えるようなインチクやメタルジグを使う場合に備え、もう少し強めのジギングタックルもボートに持ち込んだ。

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