Vol.42 神奈川県・芦ノ湖
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は神奈川県・芦ノ湖のワカサギ、マス類ほかをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
高原の空気がすがすがしい、神奈川県・芦ノ湖の「ザ・プリンス 箱根」を釣査!魚探を使って、アグレッシブターゲットを追う!ボート倶楽部2013年12月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
湖でも"シー"スタイル
本連載では、これまで41カ所のホームマリーナを釣査し、クラブ艇によるさまざまなボートフィッシングを紹介してきた。釣れるときもあれば釣れないときもあったが、毎回ホームマリーナを変えることで、フィッシング以外の部分でも新たな発見と感動が味わえ、クラブ艇を利用するたびに、シースタイルの魅力を実感してきた。
今回も、どこのホームマリーナを釣査しようかとあっちこっち検討したが、取材時期にあたる9月下旬は台風シーズンの真っただ中なので、行き先の選定は悩みに悩んだ。そんなとき、「いっそのこと、海ではなく湖にしてみるのはどうでしょう?例えば芦ノ湖とか」と、担当の清水記者から提案があった。
湖だって台風の影響を受けることはあるが、海のように台風が通過する前後の数日間にわたって、出航困難ということにはならないはず。ということで、「OK、そうしよう!」と即答した。
全国に約140カ所あるシースタイルのホームマリーナだが、あらためてわかったことがある。シースタイルという海にちなんだ名称だが、湖や川にも、ホームマリーナが数多く存在しているのだ。その数、なんと20カ所。
それではシースタイルではなく、レイクスタイルじゃないか~!なんてツッコミを心の中でつぶやきながら、芦ノ湖のことを調べていると、取材当日を迎えるまでの間に、湖への興味と素朴な疑問がたくさん湧いてきた。
湖でも、月と地球の引力の関係によって発生する海のような干潮や満潮ってあるのだろうか?魚の活性に影響するような、海でいう潮流みたいなものは存在するのだろうか? など、普段、海に浮かんで当たり前のように感じていたことが、湖ではいったいどうなのだろうと、「?」ばかり。とにかく、早く芦ノ湖に行って、釣りイトを垂らしてみたい!そんな気持ちで、取材日を指折り数えた。
攻めのワカサギ釣り
9月末の取材当日、晴天のさわやかな朝を迎えた。箱根の山々はまだ紅葉が始まっていなかったが、空の青さと木々の緑のコントラストがとても美しく、普段見慣れない山の景色も、またいいものだなぁ~と、しみじみ感じた。山並みの奥には富士山も見えて、本当に素晴らしい景色だ。
芦ノ湖畔に到着すると、すでに多くのボートが浮かび、みな思い思いに釣りイトを垂らしている。波風のある海の光景と違い、朝霧が立ち込める静寂の中で、釣り人と魚が対話しているようにも見えた。
今回釣査するホームマリーナは、ザ・プリンス 箱根。芦ノ湖畔に立つリゾートホテルだ。ホテルが所有する桟橋でクラブ艇(ヤマハFR‐23LS)を管理し、シースタイルを運営している。そんなこともあってか、ほかのホームマリーナとは雰囲気が違うが、それがとても新鮮だ。
早速、フロントで利用手続きを済ませ、ホテルの建物から歩いて2分ほどの桟橋へ向かった。手入れが行き届いた湖畔の森を通り抜けると、美しい山々をバックに、桟橋に係留してあるクラブ艇が見えてきた。
桟橋からは透明度の高い水中を泳ぐ魚が見え、初めてみるシチュエーションに、利用前から早くも興奮度MAX!はやる気持ちを抑えつつ、ボートを出航させた。
ザ・プリンス 箱根の桟橋からクラブ艇に乗船する。まだ出航していないのに、この景色には興奮した。
目的はフィッシングだったが、浮かんでいるだけでも至福のひとときが味わえる、最高のロケーションだ。
1日目のターゲットはワカサギ。自分にとっては初めての釣りで、ポイントも釣り方もわからない。まぁ、何とかなるさと、軽い気持ちで出航した。......しかし、1尾も釣れないまま時間だけが経過したため、ポイントの移動中、着岸できる桟橋がある「九頭龍神社」に立ち寄った。縁結びのご利益があるパワースポットらしいが、私は「釣果が得られますように」と祈願した。
祈願が足りなかったのか、そのままあっという間に昼となり、こちらもボートで着岸が可能な「芦ノ湖フィッシングセンター/レストランおおば」の桟橋へボートを着けた。ここで食べたワカサギの天ぷら定食があまりにおいしく、絶対ワカサギを釣ってやる!という決意を新たに店を出た。
「芦ノ湖フィッシングセンター/レストランおおば」には桟橋があり、着岸前に電話をすれば、クラブ艇でも湖上から立ち寄ることができる。
定番メニューのワカサギ天ぷら定食は大変おいしく、午後の釣りに向けての英気を養えた。
桟橋のスタッフにワカサギのポイントについて聞いてみると、「水深は10~12メートル前後で、魚探で海底に映る魚群反応を見つけてください。それがワカサギです」と、親切に教えてくれた。
アドバイス通りに魚探とにらめっこしながらワカサギを探し、それらしい反応が出たところで素早く仕掛けを投入。着底直後に小さなアタリが届くと、待望のワカサギが1度に3尾も釣れ上がり大興奮!その後は要領をつかみ、30尾ほど釣り上げることができた。サイズは小さいけれど、魚探を見ながら群れをねらい撃ちするというスタイルは、??釣れた?≠ナはなく??釣った?≠ニいう感覚を味わえ、とても楽しい釣りだった。
画面右側の魚探部分には、海底付近に魚群反応が映っている。この正体がまさしくワカサギで、この反応を見つけたら即座に仕掛けを下ろす。
水深12メートル前後の浅場をねらうので、エンジンを停止したほうがワカサギにプレッシャーを与えず、釣果も上向く。
いい反応に出合い、追い食いを成功させると、ご覧の通り、ワカサギが鈴なりに釣れ上がる。群れの移動が速いので、数を伸ばすには追い食いが必須だ。
泳がせで大物ねらい
2日目はロコアングラーとして、笹川輝次さん(71歳)に同乗していただいた。笹川さんは、芦ノ湖でルアーキャスティング、フライキャスティング、レイクトローリング、ムーチング(泳がせ釣り)、ワカサギ釣りと、さまざまな釣りをカバーする名ガイド。こんな心強い助っ人は、ほかにはいないだろう。あいさつもそこそこに、ボートに乗り込む軽い身のこなしは、とても71歳と思えなかった。
この日は、釣ったワカサギをエサとして泳がせて、マスなどの大物をねらう。初日の後半には、我流ながらも、そこそこワカサギを釣ったという自信があったので、エサの確保はそれほど深刻には考えていなかった。しかしながら、初日の好ポイントには手漕ぎのレンタルボートが数多く集まっており、23フィートのクラブ艇でその中に割って入ることに抵抗を感じたので、場所をずらして釣ることにした。
やはり、ボートは釣れるポイントに集まるもので、私たちのクラブ艇が陣取ったところには、なかなかワカサギが回遊してこない。エサに使用するワカサギが釣れないことには話にならないので、曳き波を立てないよう、ボートが集まるところへ少し近づくことにした。すると、確かにこれまでのポイントよりも、ワカサギがボートの下を通過する反応が、頻繁に映し出される。
ワカサギがボートの下を通過する一瞬のチャンスを生かし、いかに多くのワカサギをハリ掛かりさせられるかで、釣果に大きな開きが生じるのだが、笹川さんのテクニックはスゴかった。1回の投入で、私は2、3尾しか掛けられないのに、笹川さんは5、6尾以上掛けるのだ。
まぁ、大ベテランに数釣りで挑もうとせず、釣り上げたワカサギを弱らせないよう、素早くバケツに入れることを考えた。
笹川さんは必ずといっていいほど多点掛けを成功させる。「仕掛けはフワッ、フワッと、優しく動かすだけでいいですよ」とのこと。
30尾ほど確保できたところで、いよいよ泳がせ釣りだ。ボートはアンカリングし、エンジンも停止してスタンバイする。ワカサギを背掛けにして、笹川さんの指示ダナへゆっくりと仕掛けを沈めた。
待つこと約1時間、私のサオに待望の前アタリが届き、次第にサオ先の揺れが大きくなった。「今でしょ!」と心の中で叫び、サオを立てるも、テンションが掛かっていたサオ先がフワッと戻ってしまった。タイミングが早すぎて、スッポ抜けたようだ。ショック......。完全に食い込むまで辛抱できなかったことに、自己嫌悪に陥った。
泳がせ釣りの仕掛けに前アタリが届いたが、合わせが早すぎたためにハリ掛かりせず、すっぽ抜けてしまった。あぁ~悔しい!
劇的クライマックス!
15時を過ぎて日が傾き始める。帰港時間を意識し始めたそのとき、笹川さんの長いムーチングロッドが大きな弧を描いた!5分ほどのやり取りを固唾(かたず)を飲んで見守り、私が差し出すタモに収まったのは、40センチはあろうかという立派なニジマス。夕陽を浴び、虹色に輝く魚体がとても美しい1尾だった。
笹川さんがヒットさせたのは、40センチ弱のニジマス。光輝く魚体が美しく、本当にうらやましい1尾だった。
満面の笑みをこぼす笹川さんからは、「やっと釣れました。ホッとしました」と、安堵の言葉。おそらく、フィッシングガイドとしてのプレッシャーを感じていたに違いない。
「よかった~、この1尾で、記事の写真がワカサギだけにならずに済んだ~」なんて思っていたら、笹川さんはすぐにガイドの顔に戻り、「まだチャンスはありますよ!」と激励してくれた。
先ほどハリ掛かりさせられなかった悔しさもあり、自分もなんとか1尾釣りたいとサオ先に神経を集中させたが、結局、無念の時間切れ。16時に桟橋へ帰着した。
それでも、自分が泳がせ釣りで結果を出せなかった悔しさは意外と少なかった。湖での取材で、私にとっては新鮮な感動が、本当にたくさん得られたからだ。あ!そういえば、楽しさのあまり、湖に対する疑問の解決をすっかり忘れてしまった......。
深場に落ちるこれからのワカサギは、型がよくなり、脂も乗ってきて、ますますおいしくなるという。本誌12月号が発売される11月は、箱根で最も紅葉が美しくなる季節である。みなさんもぜひ、足を運んでみてください! 普段とは違った感動が待っていますよ!
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の講師を務める。著書に『必釣の極意』(舵社)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/
【今回のロコ・アングラー】
ロコアングラーとして芦ノ湖でフィッシングガイドをされている笹川輝次(てるじ)さん(71歳)。今回も頼もしいロコアングラーだ。
ザ・プリンス 箱根の本館メインロビーは、荘厳な雰囲気が漂っている。この長いロビーを通って、ホテル中庭の湖畔の桟橋へと向かう。こんな経験は今までになかった。
芦ノ湖の釣りで必要となる遊漁券。ザ・プリンス 箱根のフロントでも購入できる。1日1,300円。
ザ・プリンス 箱根のクラブ艇は、115馬力船外機を搭載したヤマハFR‐23LS。広い居住空間を誇るマルチパーパスモデルで、さまざまなマリンプレーに対応する。
クラブ艇に装備されていたGPS魚探は、ヤマハYFRII065。画面サイズが6.5インチなので、大きくて見やすい。
クラブ艇には電動マリントイレが設置されていて、家族連れやカップルでも安心して利用できる。
FR‐23LSはキャビンが広く、フィッシング以外の目的でも使い勝手がいい。万一、雨が降っても安心だ。
将来的には教習艇にも使うことを想定し、クラブ艇のシフトレバーは左手側に設置されていた。初めは少し違和感があったが、すぐに慣れて、問題なく操船できた。
芦ノ湖名物の海賊船をモチーフにした遊覧船が近くを通過。乗客のリクエストに応えるように、手を振り返した。
九頭龍神社の正面には、湖面上に立てられた鳥居が。背後に見える桟橋が、クラブ艇でも自由に係留できる神社のもの。ボートでお参りなんて初めてだ。
縁結びのご利益があるということで、近年、箱根の人気スポットになっている九頭龍神社。でも私は、「釣果に縁がありますように!」と祈願。
芦ノ湖での初釣果はワカサギではなく、外来魚のブルーギル。なんとなく微妙な気持ちになった。
1日目に釣ったワカサギは小型が主体だった。このサイズだとかき揚げがおいしいはずだ。
回遊してくる群れによって、ワカサギのサイズが異なる。そのサイズを選べないことが悩ましいが、いずれもおいしく食べられる。
笹川さんが用意してくれたのは、芦ノ湖で最も釣果が上がるように、さまざまなエッセンスを盛り込んでメーカーに発注した特製仕掛け「芦ノ湖スペシャル」
アンカリング中なので、湖底はフラットに表示されている。宙層の薄い反応は、浮遊物やサーモクライン(水温変化層)の可能性が高い。ワカサギと間違えないように注意しよう。赤くハッキリ出ている反応は、笹川さんによるとマス類のものとのこと。
好ポイントが見つかれば、アンカリングしてエンジンを停止したほうが効率よく釣れる。釣ったワカサギをエサとして泳がせる場合にも釣りやすい。
活きたワカサギを泳がせる場合には、ハリを背掛けにする。弱らないように素早く作業しよう。
2日目は、箱根園のレストランで昼食をとった。ザ・プリンス 箱根の桟橋から湖畔沿いを歩けば、5分で到着できる。
笹川さんが泳がせ釣りで大物をヒットさせた。貴重な1尾なのでタモ取りする私は緊張。
ここまで入ればもう大丈夫!
2日目の釣果(3人分)。上からニジマス、ヒメマス、ワカサギの3魚種。ヒメマスは、朝の集合時間前に、笹川さんがマイボートで釣ってきたもの。
釣果カレンダー
芦ノ湖の釣期は、解禁期間の3月1日から12月第3日曜日までに限定され、遊漁料の支払いが義務付けられている。ワカサギは、初夏~秋は太陽光が届く浅場(5~10メートル)でねらえるので、エサを付けなくても、キラキラと光るカラバリ仕掛けで釣りが可能。水温が低くなる秋から冬にかけては、太陽光が届きにくい水深20メートル以深へ移動するので、カラバリではなく、エサ付けが必要だ。トローリングや泳がせ釣りでは、ヒメマス、ニジマス、サクラマス、ブラウントラウトなどがねらえる。
芦ノ湖のフィールドマップ
芦ノ湖は、神奈川県足柄下郡箱根町にある、面積約7.1平方キロ、周囲約21.1キロの淡水湖。標高約723メートルにあり、首都圏から近い避暑地として人気が高い。周辺には温泉が多く、観光名所やリゾート施設も数多く点在する。ボートフィッシングが盛んに行われ、湖畔には釣り具店やレンタルボート店が多く、ワカサギ、マス類、オオクチバスねらいの人でにぎわっている。
芦ノ湖は、エリアごとにさまざまなルールが決められている。クラブ艇を借りる際に渡されるファイル内にも、細かいルールが記載された説明図が入っているので、必ず目を通そう。
ワカサギの好ポイントにはボートが集まる。写真は、昼食に立ち寄った「レストランおおば」のある湖の北側。
湖畔に立つ「レストランおおば」は、ワカサギ料理が売りの店で、店内には芦ノ湖のワカサギ漁の歴史がいろいろと展示してあった。
TEL:0460-84-8984
ザ・プリンス 箱根
芦ノ湖に唯一存在するシースタイルのホームマリーナが、ザ・プリンス 箱根。マリーナというよりも、湖畔のリゾートホテルが、桟橋にクラブ艇を保有しているというスタイルだ。シースタイル担当の稲葉さんと小川さんは、芦ノ湖のボーティング事情をしっかり理解しているので、利用にあたっての対応は万全。今回はボートフィッシングを楽しんだが、とにかく景色が美しく、四季を通じてクルージングも楽しめる。
■交通アクセス
東名高速道路厚木ICから小田原厚木道路経由で約1時間
東名高速道路御殿場ICから乙女峠経由で約45分
■問い合わせ先
神奈川県足柄下郡箱根町元箱根144
TEL:0460-83-1111
営業時間:10時~16時
定休日:不定休
http://www.princehotels.co.jp/the_prince_hakone/
桟橋から眺めるザ・プリンス 箱根の本館。部屋を予約してあれば、宿泊とボーティングの両方が楽しめる。
同ホテルのシースタイル担当、稲葉健二さん。親切な対応で、初めてでも安心して芦ノ湖を楽しむことができた。
今回使用したタックル
ワカサギの専用ロッドは極端に短いものが多く、舷が高いクラブ艇では使いづらい。よって、クラブ艇では、長さ1.8メートルほどのロッドが釣りやすい。リールはスピニングでも両軸受けリールでもOK。今回、ワカサギ釣りでは、6:4調子のロッドに小型両軸受けリールをセット。釣ったワカサギをエサに使う泳がせ釣りには、穂先が軟らかく食い込みのいいキスザオに、スピニングリールをセットした。
今回私がボートに持ち込んだタックル類。
左から、ワカサギねらい用のベイトタックル、泳がせ用のスピニングタックル。