Vol.40 静岡県・相模灘
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は静岡県・相模灘のイサキ・中深場五目ほかをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回は日本有数の源泉数を誇る温泉の街、静岡県伊東市の「伊東サンライズマリーナ」を釣査!ドン深の海底地形をどう攻略するかが、好釣果のカギ!?ボート倶楽部2013年6月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
「海の駅」と「道の駅」
桜の開花が例年よりも1週間ほど早かった今年の春。連日、各地の満開宣言が報じられていたが、桜よりも海中の様子が気になってしまうのが釣り人の性。季節の到来が陸上より1カ月ほど遅れるといわれる海中も、今年は春の訪れが早いかも......と、各地の釣果情報に目を光らせていると、本誌編集部から、「次回のマリンクラブ釣査隊の行き先は、静岡県の伊東サンライズマリーナに決定。詳細は追って連絡します」という第一報が入った。
伊東は相模湾の西側、伊豆半島の東側に位置する、首都圏からアクセスのよい、熱海と並ぶ温泉観光地だ。伊東で連想するのはあのテレビCM。そう、「伊東に行くなら◯◯ヤ、電話は◯◯フロ......(中略)釣れば釣るほど安くなる、3段逆スライド方式......」。べつに今回の取材でそのホテルに泊まるわけではないのに、行き先が伊東と聞いてからは、そのCMソングが頭から離れなくなってしまった。
伊東サンライズマリーナの特徴は、「道の駅・伊東マリンタウン」に併設しており、さらに「海の駅」にもなっている点である。伊東マリンタウンは、伊豆半島へ行楽に訪れた多くの人が足を運ぶ、伊東随一の人気観光スポットになっている。
数日後、取材に協力してくれるロコアングラーが決定した。実は私、事前にロコアングラーに連絡して、最近の釣況や取材当日のターゲット、そして用意すべきタックル類を相談するのが、楽しみの一つになっている。
今回のロコアングラーは、岡田秀平さん(36歳)。マリーナ内でボートのメインテナンスやフィッシングガイドをこなすスペシャリストだ。挨拶がてら電話を入れ、これから始まるマリンシーズンに向けて、ビギナーでもねらいやすいシロギスをターゲットに......と相談を持ちかけた。すると、「シロギスにはまだ少し早いですね。それよりも、いま釣れ盛っているイサキや、周年ねらえる中深場の魚はいかがでしょうか?」と明快な答えが返ってきた。こんなやりとりがなんとも楽しく、その提案に二つ返事で了承し、今回の釣りものが決定した。
釣り仕様のクラブ艇
取材初日は晴天、微風で、最高の釣り日和に恵まれた。陸置きで保管されていたクラブ艇(今回はYF-23)がクレーンによってつり上げられ、海に浮かべられる光景は、何度見ても気持ちが高ぶる。いったんクラブ艇を桟橋に係留し、荷物を積み込むとともにタックル類をセットした。
クラブ艇にはロッドホルダーやコマセバケツを保持するためのコマセキーパー、さらには電動リール用の電源設備も備わり、申し分のない釣り仕様となっていて、これから始まるボートフィッシングに期待が高まった。そういえば、先ほどクラブハウスで挨拶したハーバーマスターの稲葉謙一郎さんが、「当マリーナではシースタイル利用者の7割以上が釣り目的なので、少しでも快適に釣りができるように、釣り仕様の艤装を施してあります」って言ってたっけ。納得、納得。
このような仕様のクラブ艇が各地に増えると、利用者側の荷物も少なく済み、快適にボートフィッシングが楽しめるので本当にありがたい。
出航準備が整ったところで舫いを解き、岡田さんの指示に従い、5マイルほど離れた沖合にある初島方面へ向け、ボートを進めた。
釣り用の艤装品として、ダイワ製ロッドキーパー4個、コマセキーパー4個、電動リール用コンセント2個を装備している。また、ウェイクボード用のポールも装備されていた。
ダンフォース型アンカーとウインドラスも装備され、アンカリングをしての掛かり釣りも快適に行える。
近いのに深い伊東の海
島の南側には先着のプレジャーボートや遊漁船が見えた。「みんな知っているフネばかりです。ちょっと状況を確認してみますね」と言って、岡田さんはそのうちの一隻に電話を入れた。「朝のうちは結構釣れたらしいけど、いまはポツポツ拾い釣りらしいですよ」とのこと。航程20分ほどで、先着のボートが浮かぶポイントに到着したが、どのボートも遊漁船の邪魔をしないように一定の距離を保っている。
魚探でイサキの反応を探しながら、ここぞと思うポイントにて船尾を風上に向け、ギアを後進に入れてトモ流しをスタート。魚探を見ると海底起伏の周辺にはイサキらしき魚群反応が映し出されるが、魚群自体が回遊しているらしく、すぐに反応が消えてしまう。とりあえず、魚群反応が出ていなくてもコマセで寄せれば釣れるはず......と、実釣スタート。
しかしながら、開始から30分たっても一向にアタリが届かない。3回ほどポイントを変更したところで、ようやく私に本命らしき魚からのアタリが届いた。ところが、ビシカゴを回収し、ハリスを手繰っている最中、ウネリの影響でハリスのテンションが弱まり、痛恨のバラシ。25センチ級のイサキの姿が見えていただけに悔しい思いをした。
その直後、再びヒットし、岡田さんが差し出すタモに収まったのは25センチ級の良型イサキ。次は岡田さんにアタリが届き、同サイズをゲットし、二人してホッと胸をなで下ろした。その後もイサキがポツポツと釣れ上がり、5尾に達したところでいったん中止。クルージングを楽しみながら、次のターゲットを釣るべく、中深場を目指すことにした。
てっきり沖合へ向かうのかと思ったらそうではなく、初島の北側へ向かった。GPSプロッターの等深線を見ると、深場が沿岸側に入り込んでいた。「岸から近いところでも深場釣りができるのが、伊東の海の特徴なんです」と岡田さんが得意げに聞かせてくれた。到着したポイントの水深は230メートル。先ほどまでイサキをねらっていた初島周辺よりも陸側(伊豆半島側)なので、不思議な気分であり、陸地が近いために安心感がある。
シーアンカーを投入し、傘が開ききったところで実釣スタート。テンビン+吹き流し仕掛けに、サバの切り身を付け、船縁からゆっくり仕掛けを下ろす。ひと足先に投入した岡田さんの仕掛けが着底し、イトフケを取るやいなや、サオ先にアタリが届いた。巻き上げの途中で何度かヒキが届いたが、後半はヒキが収まり、ただ重いだけ。予想通りオキギス(ギス)が釣れ上がった。カマボコなど、練りものの素材となる魚だが、今回は海にお帰りいただいた。続いて私のサオにも同様にオキギスが釣れ上がり、二人して「赤い魚が釣りたいねぇ~」とつぶやいた。
開始早々にヒットしたのは、カマボコや練りものの素材となるオキギス(ギス)。今回は海にお帰りいただいた。
イサキとは異なるヒキだと思ったら、30センチ級のウマヅラハギだった。もしかしたら、魚探に映った中層の反応はコイツなのかもしれない。
風と潮流の影響を受け、ボートがどんどん水深の深い方へ流れていった。気がつけば水深300メートルに達していたので、シーアンカーを回収して流し替え。水深120メートル付近から再スタートした。私にシロムツ(オオメハタ)が1尾釣れ上がり、岡田さんのサオにもよいヒキが届いていた。もしかしてアカムツか!?なんて期待するわれわれの気持ちを見事に打ち砕き、ツノザメが姿を見せた。はぁ~、がっかり。それでも、200メートルほどの水深から、アレコレ期待しながらリールを巻き上げてくるのはとても楽しく、深場釣りの醍醐味は満喫できた。
予感が的中、やはりサメだった。でも、ヒキを存分に楽しませてもらったのも事実である。
25センチ級のイサキを釣り上げ、ホッと胸をなで下ろした岡田さん。やはり取材ということで、プレッシャーを感じていたに違いない。
最後に小一時間ほど、浅場でマダイねらいに挑戦した。本命こそヒットしなかったが、チカメキントキが釣れ上がり、釣果に彩りを添えて沖上がり。マリーナに帰港すると、伊東マリンタウンには多くの観光客が訪れていた。施設全体が活気に満ちていて、なんだかこっちまで楽しい気分になってきた。
沖上がり直前にマダイをねらったが、釣れ上がったのはトゴットメバル。もう少し型がよければ......と悔しがる岡田さん。
一瞬マダイか!?と思ったけど、その正体はチカメキントキ。釣果に彩りを添えてくれた。
初日の釣果。本命のイサキはうれしかったが、中深場のオニカサゴ、アカムツが釣れなかったのは残念だ。
大自然が身近に味わえる
翌日、仕事のため乗船できない岡田さんを桟橋に残し、私は中深場のオニカサゴにターゲットを絞って出航した。伊東沖では、比較的水深が浅いポイントでオニカサゴを釣った経験があったので、水深80メートル付近から実釣スタート。トモ流しを行いながら15分間ほどポイントを探り、アタリがなかったら次なるポイントを探るべく、20メートル刻みで水深が深い方へ移動を繰り返した。
しかしながら、前日と違って外道のアタリさえ来ない状況が続き、時間だけが経過した。水深140メートル付近に達したところでようやくアタリが届いたが、その正体はカラスザメ。またしてもガッカリ。
13時すぎ、わらにもすがる思いで浅場のシロギス釣りに切り替えた。オニカサゴと同様に釣り場を変え、水深を変えても一向にアタリが届かず......。うーむ、オニカサゴはともかく、シロギスまでも釣れないなんて......。大自然を相手にする遊びだけに、思い通りにいかないことが多いが、この下積みがあるからこそ、釣れたときには喜びが倍増する......、と解釈して沖上がり。
今回はボートフィッシングのためにシースタイルを利用したが、伊東サンライズマリーナのクラブ艇航行区域内には、海側からの景色を楽しめるポイントも多い。例えば、熱海の錦ヶ浦や城ヶ崎海洋公園内の門脇つり橋付近は、断崖絶壁の景色がすばらしく、雄大な自然を身近に体験できる。初島に寄港して、島内を散策するのも面白い。ボートフィッシングはもちろんのこと、そのほかのボート遊びも存分に楽しめるのが伊東の海だ。
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の講師を務める。著書に『必釣の極意』(舵社)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/
【今回のロコ・アングラー】
ロコアングラーとして伊東の海を案内してくれたのは岡田秀平さん(36歳)。伊東サンライズマリーナのメインテナンス業務を請け負う伊東マリンサービスの社員で、28フィートのマイボートも所有する、根っからの釣り好きだ。
道の駅「伊東マリンタウン」は、いまや伊東を代表する観光名所となっている。
取材当日の朝、快晴、ベタ凪の相模湾から日の出が見えた。最高の釣り日和になりそうな予感がした。
伊東サンライズマリーナのクラブ艇は、コックピットスペースが広く、115馬力船外機を搭載したYF-23。荷物が多くなりがちなコマセ釣りでも、4人で快適に楽しめる。
クラブ艇に装備されていたGPS魚探。中深場の釣りでは、ボートが流れていく方向を把握するためにも、GPS魚探は必須アイテムだ。
中深場釣りではマストアイテムとなるシーアンカーは、2,100円/6時間で借りることができる。
クラブハウスではロックアイスが売られている。バケツ1杯200円はお手ごろ価格でうれしい。
初島が目前に迫る、水深35メートルの岩礁地帯にて実釣スタート。
スパンカーを装備した他船は、スパンカーで風上に舳先を向けていたが、今回のクラブ艇ではトモ流しでラインを立てた。
初島フィッシャリーナに係留(有料)すれば、初島への上陸が可能。豊富な食事処や海洋資料館などを巡る、島内観光も楽しめる。
初島へは航程20分ほど。島の周囲には魅力的な好ポイントが豊富だ。
コマセを振り出し、イサキを寄せる。少しずつタナを上げていくのが、イサキの効率的な釣り方だ。
待望のイサキがヒット!?アタリが少ないときは、後悔しないためにも、面倒がらずにタモを使って確実に取り込もう。
2日目は真っ先に中深場の釣り場を目指した。前日の貧果を挽回するためだ。この時点では、返り討ちに遭うなんてみじんも思っていなかった。
オニカサゴねらいとしてはやや浅い、水深100メートル前後をねらった。
カラスザメが釣れ上がった。取材中の2日間、オニカサゴからは見放され、逆にサメからは好かれてしまった。
過去に、オニカサゴやアカムツでよい思い出があるので、いつかは食ってくれると信じてアタリを待ったのだが......。
帰港10分前には、マリーナへ電話を入れることになっている。こうすることで、スタッフが桟橋にスタンバイしてくれるので、着岸も安心だ。
最後に浅場でシロギスをねらってみたが、不発に終わった。岡田さんからの事前情報は正しかった......。
釣果カレンダー
周年さまざまな魚種をねらえるが、季節性のある魚に関しては、沖合に浮かぶ初島を皮切りに、各魚種の釣期がスタートする。浅場の岩礁地帯では根魚(メバルやカサゴ)が周年ねらえ、同一ポイントで秋口にはアオリイカが楽しめる。マダイや青ものの実績も高く、水温やベイトフィッシュに応じたポイント選定ができれば確率がアップする。アマダイの魚影も濃く、オニカサゴと同様に冬場の人気ターゲットになっている。
伊東周辺のフィールドマップ
クラブ艇の航行エリアは南北に広く、沖合(東側)は初島を越えたところまでなのでわかりやすい(詳細はマリーナに確認のこと)。海岸線に山並みが迫っていることもあり、沿岸部は岩礁地帯が多い。水深がすぐに深くなり、アングラーにとって魅力的な海域である。特筆すべきは、初島より陸側でも水深が300メートルを超えることで、深場釣りも安心して楽しめる。なお、手石島(ていしじま)付近一帯は浅場の岩礁地帯もあるので、要注意。
宇佐美にある老舗の山哲釣具店。エサと仕掛け類を調達した。
営業時間:24時間
TEL:0557-47-2435
マリンタウン内にある寿司店「伊豆太郎」のテラスにて、近海寿司というセットを食べた。空腹だったので一瞬にして胃袋に収まった。
マリンタウン内のオーシャンバザールには、伊豆半島ならではの名産品を扱った店が並んでいる。
マリンタウンには、疲れた足を癒やせる屋外足湯「あったまりーな」がある。目の前に広がる相模湾を望みながらの足湯は最高だ(無料)。
私が眺めているのは海上係留の保管艇ではなく、その先に見える初島。かすんでいると遠そうに思えるが、実際にはボートで20分ほどで到着できる。
マリンタウンの目玉にもなっているシーサイドスパは、海辺の源泉から湧き出る温泉ということで人気が高い(有料)。
伊東サンライズマリーナ
伊東サンライズマリーナは、伊豆半島の東側、温泉地として有名な伊東にあり、道の駅「伊東マリンタウン」に併設している。約150艇のボート、ヨットを陸置きと海上係留で保管しており、2006年からはシースタイルのホームマリーナとしてサービスを開始。現在、クラブ艇はYF‐23が1隻配備されている。首都圏から近いことや、観光スポットであることから、シースタイルの利用客も多い。ボートフィッシングのみならず、海岸線が美しい城ヶ崎方面へのクルージング目的でも、人気が高まっている。
■交通アクセス
小田原厚木道路早川ICから約60分
■問い合わせ先
静岡県伊東市湯川571番地19
TEL:0557-38-7811
営業時間:4~9月 8時30分~17時30分(土日祝8時~18時)、
10~3月 8時30分~17時
定休日:火曜日(7~8月は無休)、年末年始
http://www.ito-marinetown.co.jp/
道の駅としての顔と、海の駅としての顔を持つ伊東マリンタウン。見ているだけでも楽しさが伝わってくる、華やかなカラーリングとデザインが目印だ。
伊東マリンタウンの営業推進部マリーナ担当の進士正之さん。「伊東の海を、もっと多くのみなさまに楽しんでいただきたいです」
今回使用したタックル
イサキねらいは、コマセを補充する手返しを素早く行うために小型電動リールをセットした、6:4調子の汎用ロッドを使用。中深場の五目ねらいでは、ヤリイカ用または先調子の汎用ロッドを、状況によって使い分けた。いずれのリールも、操船しながらのクラッチON/OFFからタナ取り、巻き上げまで、すべての操作を片手で行える「ジョグパワーレバー」を装備した小型電動リールに、コードレスバッテリーをセットした。
今回私がボートに持ち込んだタックル類。左が中深場用、右がコマセ五目用だ。ほかに浅場でのシロギスねらい用として、スピニングタックルも積み込んだ。