Vol.34 茨城県・大洗
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は茨城県・大洗の青もの、ヒラメをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回は茨城県・大洗の那珂川河口に位置する飛鳥マリンクラブ出航。黒潮と親潮がぶつかる、豊饒の海の魅力をお伝えしよう。ボート倶楽部2011年12月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
初めて浮かぶ茨城の海
神奈川県・横浜在住の私にとって、近くて遠い海、それが茨城の海だった。横浜から茨城までは200キロ弱。この距離の釣行を考えたとき、私はこれまで茨城ではなく、同距離にあたる静岡県の西伊豆方面ばかりを選んでいた。
茨城へ行くには、渋滞しがちな東京を通過しなければならないのが、敬遠していた最大の理由だ。とはいえ、茨城の海に興味がないといったら嘘になる。遊漁船の釣果情報を見る限り、茨城の海は「いつも釣れている」という印象があり、さぞかしすごいポテンシャルを持った海に違いない、いつの日か行ってみたい、という願望だけを持ち続けていた。
そして今年の3月11日、東日本大震災が発生し、茨城にも甚大な被害が及んだ。岩手、宮城、福島の東北三県に比べれば、テレビのニュースなどでも報道される機会が少なかったが、それでも茨城県の沿岸部には津波による被害が発生した。私自身、震災で釣りを自粛することはなかったが、茨城方面へ釣行する機会を失ってしまい、しばらくは被害のない場所へばかり出かけていた。
8月に入ると、被災者の方たちの大変な苦労と努力により、東北三県でも遊漁船の営業が再開され始めた。釣り人の間には現地を訪問することで経済的に支援しよう、という機運が高まっていった。そんなこともあり、私自身も茨城へ釣行するなら、いまがいいかも......そう思って初めての海、茨城釣行を決意した。
とはいえ、茨城の海は鹿島灘というだけあって潮流が速く、地形的にも風を遮る大きな半島がなく、完全な外海である。そんな海に可搬型ボートの愛艇〈友恵丸〉で初めて浮かぶには、ややハードルが高いのも事実。
そこで思いついたのが、シースタイルを利用しての釣り。21フィート級をレンタルすれば、13フィートの〈友恵丸〉とは比べものにならないほど安心して、ボートフィッシングが楽しめるはずだ。
調べてみると、茨城海技学院「飛鳥マリンクラブ」でシースタイルが利用できる。話を伺うと、津波の影響はあったもののすでに営業は再開しており、「青ものが好調」とのこと。これはもう行くしかない。
安全第一の運営方針
飛鳥マリンクラブは那珂川の河口から1キロほど上流の川沿いにあり、クラブ艇を2艇保有していた。ボート免許スクールを本業としていることから、安全に対する意識がとても高く、天候や海況の判断基準は厳しく、利用者の安全を最優先に考えた方針は大変好感が持てるものだった。
取材に協力してくれたロコアングラーは、飛鳥マリンクラブのメンバーである飯田和幸さん、岩松仁志さん、そして茨城海技学院社長の根本明徳さんの3名。いずれもふだんから釣行回数、そして釣果の実績の高い面々で、大変心強く、大船に乗ったつもりで、YF-23EXで岸払い。
空は快晴、海もベタナギで最高の釣り日和だが、数日間降り続いた雨が那珂川から海へ流れ込み、大洗や那珂湊周辺の海域は茶色に濁っていた。そこでさまざまな魚種をねらえる磯崎方面へ向かうことになったが、舵を握る根本さんは、真っすぐ沖合を目指して走った。
そういえば出船前のレクチャーで、「磯崎方面へショートカットすると、途中で暗岩が多く危険なエリアを通過することになるので、必ず沖に出てから大回りすること」と言っていたなぁ。航程20分ほどで、磯崎の沖、水深30メートル付近に到着した。魚探で水中の様子をうかがうと、砂地のところどころに険しい岩礁があり、なかなかおもしろそうなポイントだ。
「ここ磯崎沖は遊漁船も多く集まる好ポイントなんですよ」と根本さんが話してくれたが、今回は平日だったためか?そんな遊漁船の姿は見当たらなかった。
まずは一つテンヤ釣法でマダイをねらうことにした。船首から持参したシーアンカーを投入してボートを潮に乗せ、実釣スタート。開始早々、飯田さんが20センチほどのカサゴを釣り上げた。「もっと大きなカサゴが釣れますよ」と言って謙遜しつつも、ニッコリ微笑んだ。その直後、根本さんも同サイズを釣り上げ、開始早々からみなさんエンジン全開だ。
多彩なターゲットに満足
私はサミングしながら、テンヤのスローなフォールを演出する作戦でアタリをキャッチ。手応えからしてカサゴではないことがわかったが、マダイとも異なるヒキだ。ときおりスプールを逆転してラインを引きずり出すほどパワフルな走りは青ものなのか?一進一退の攻防が5分ほど続き、水面に姿を現したのは60センチ級の青もの。タモ取りも成功し、釣り上げた魚体を確認すると、なんとヒラマサ。一つテンヤ用タックルでのやり取りはスリリングで、とても楽しかった。
一つテンヤのタックルに、なにやら大物がヒット。極細のPEラインを使用しているので、5分以上の慎重なやり取りの末、上がってきたのは......。
60センチ級のヒラマサを釣り上げ、気分上々の私。飯田さんと根本さんは、まるで自分のことのように喜んでくれた。
その後もカサゴがポツポツ釣れ、私にはうれしいアイナメがヒットした。地元、神奈川の海ではアイナメが釣れなくなった話をすると、「こっちにはまだいっぱいいますよ」と飯田さんが聞かせてくれた。私はタイラバー釣法に切り替えると、さらにひと回り大きなアイナメをゲット。おそるべし、茨城の海。
ついに飯田さんがマダイを釣り上げた。たとえ小さくても、この魚は釣り人に大きな喜びを与える、特別な魚だと痛感した。
大ダイねらいのタイラバーにヒットしたのは、神奈川の海では滅多に釣れなくなったアイナメの35センチ。先ほど一つテンヤで釣ったものよりも、ひと回り大きかった。
ところが、お昼近くになると次第にアタリが遠のいてきたので、私はカメラ艇としてスタンバイしていた岩本さんが操船するBelfinoに乗り換え、沖合へ青ものを探しに出かけ、飯田さんと根本さんは浅場へ向かった。
あいにく、青もののナブラを発見できず、水深15メートルほどの浅場に陣取るYF-23EXの元へ向かうと、二人でアジの入れ食いを堪能中。コマセを使わないサビキ仕掛けで、次から次へとアジを掛けていた。
うまそうな金アジを鈴なりに釣り上げる根本さん。コマセの使用が禁止されている茨城の海だが、いいポイントに入るとコマセなしでもこのとおり。
飯田さんも次から次へと食べごろサイズのアジを釣り上げ、見る見るうちにイケスが賑やかになっていった。
「もうアジは十分」とのことで、潮が変わったことに期待し、再び午前中に攻めた磯崎沖へ向かい、一つテンヤでのマダイねらいに再挑戦。ボートを流している近くにナブラが発生した場合に備え、私はメタルジグをセットしたルアー用タックルをスタンバイさせていた。
このタックル、実は今回の取材が初使用。なんとか大物をヒットさせ、魂を注ぎ込みたいと思っていた。ところが、ナブラの発生が少なく、どうやら入魂は次回へ持ち越しになるのかなぁ......そんな思いが頭をよぎっていた。
再訪を決意する豊饒の海
大きく陽も傾き、小康状態が続くなか、カメラ片手に手持ち無沙汰にしていたイトー記者が私のニュータックルをいじり始めた。「これいいですね~」とか言って、タックルの感触を試すフリしてルアーを投入するが、目つきは釣ってやろうという真剣そのもの。
その直後、イトー記者がロッドをグッと立て、アワセを入れたのを私は見逃さなかった。
「そのタックル、魂を入れるのは僕だからね」と一応釘を刺すと、珍しく聞き分けよくタックルを手渡してくれた。バトンタッチしてやり取りを開始すると、意外と重く、けっこう引く。メタルジグを使って海底付近で食う魚は根魚? でも、残り10メートルになってもときおり鋭い突っ込みを見せるし、水圧変化に負けない魚......もしかして......。
最後の最後まで激しいファイトで上がってきたのは、60センチ級のヒラメで、根本さんが差し出すタモに無事納まった。ヒラメとのやり取りは楽しかったが、掛けたのはあくまでイトー記者。それでもバラさずに取り込めたのは、私の慎重なやり取りの賜物だと自分に言い聞かせ、納得しようとした。
イトー記者が掛けたタックルを奪い取り、慎重なやり取りの末、根本さんが出したタモにすっぽり納まったのは、60センチ級の肉厚なヒラメ。
ところが、カメラを構えているイトー記者は、どう見ても誇らしげ。チクショー、また借りができてしまったか......でもまぁいいか、このヒラメが釣果に花を添えたのは事実だし......。
このヒラメを最後に納竿し、2艇そろって沖上がりすることにした。
噂どおりの釣果にも恵まれ、大満足の沖上がりとなったが、帰航途中で見た那珂湊や大洗付近の陸地には、まだ震災の爪痕が数多く残っていた。
津波の破壊力のすごさも海という大自然の一面であり、魚が豊富で釣りが楽しめるのもまた同じ海である。ボートフィッシングという遊びを通じて、海の怖さもすばらしさも目の当たりにできるのは、ある意味、人生において大変幸せなことなのかもしれない。
お世話になった三人は「茨城の海は本当に魅力的」と口をそろえる。私自身もたった一日の釣行にもかかわらず、その魅力を実感できた。帰路も横浜まで3時間かからなかったし、再訪するしかないでしょう。この豊かな海を知ってしまった以上。
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年東京生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の企画・運営に携わる。著書に『必釣の極意』(舵社刊)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。本誌に「Nonoの旅」を連載中。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/
【今回のロコ・アングラー】
取材に協力してくれたロコアングラーのみなさん。左から岩松仁志さん、飯田和幸さん、そして茨城海技学院の根本明徳さん。みなさん飛鳥マリンクラブのベテランボートオーナーだ。
釣り目的のユーザーに人気が高いクラブ艇がこのYF-23EX。オールラウンドにボートフィッシングを楽しめる、使い勝手のいい一艇だ。
もう一艇がこのBelfino。釣りは後部コクピットのみに限定されるが、少人数の釣りや、釣りをしない家族が同乗するなら、こちらもおすすめ。
Belfinoに装備されていたGPS魚探。水深30メートル付近の砂地には海底起伏があり、流して広範囲を探ると楽しい釣りができそうだ。
飛鳥マリンクラブのクラブ艇には、どちらにもマリントイレが設置されていて、家族連れやカップルでも安心して利用できる。
那珂川の河口部に位置する飛鳥マリンクラブ。数日間降り続いた雨で河川の水は茶色に濁っており、青ものが遠くへ逃げていないか少し心配だ。
朝一に入ったポイントは、水族館「アクアワールド大洗」のすぐ沖。雨による濁りさえなければ、このあたりでアジやイワシなどがよく釣れるとのこと。
広々とした後部スペースはYF-23EXの特徴。3人がそれぞれに荷物を持ち込んでサオを出しても、快適に釣りが楽しめる。
一つテンヤで早々にカサゴを釣り上げた根本さん。「写真はもっと大きなものを釣ってからにしてくださいよ」と、少し照れくさそうだった。
個性的なデザインのBelfino。実釣してみると、想像以上に釣りやすかった。岩松さんは操船しながら、ウインドウのすき間からサオを出していた(笑)
今回はカメラ艇のドライバーとして協力してくれた岩松さんから、GPS魚探を使って付近のポイントをいろいろ教えてもらった。
Belfinoに乗り移って青もののナブラを探したが、小規模なものしか発見できず、鹿島灘の青ものは今回はおあずけとなった。
2キロオーバーの立派なヒラメ。釣り上げたのは確かに私だが、掛けたのはイトー記者であり、素直に喜べない私がいた......。
釣果カレンダー
付近一帯の海は鹿島灘と呼ばれるように海流や潮流が速く、半島や島など風を遮るものがないため荒れやすい。一方、黒潮と親潮がぶつかり合うエリアでもあり、穏やかな漁場を形成している。今回の釣査ではマダイをメインにねらい、本命こそ小型1尾に終わったが多彩な魚種に恵まれ、1年を通して多くの魚種がねらえる海だと実感した。特に秋は青ものの宝庫となり、エサ釣り、ルアー釣りの両方で楽しめるはずだ。
大洗のフィールドマップ
一級ポイントの磯崎沖へはマリーナから20分ほどで到着するが、岸寄りの暗岩地帯を避けるため、まずは那珂川河口から真っすぐ沖合へ進んで大回りする必要がある。水深30~40メートルには好ポイントが多く、広範囲を流せばさまざまな魚がねらえる。今回は大雨のあとで濁っていたが、那珂川河口付近の浅場でアジやイワシなど入れ食いになることも多いなど、魅力的なフィールドだ。
今回の釣果の一部。ヒラマサ、ヒラメ、アイナメ、カサゴ、アジの五目を達成。どれもおいしい魚ばかりだ。
大洗の漁港近くにある「安藤釣具店」に立ち寄った。店主はマイボートアングラー。周辺のポイントにも詳しいぞ。
那珂湊漁港に隣接する「那珂湊おさかな市場」は、新鮮な魚介類をリーズナブルな価格で販売する小売店街。陳列された魚を見て、釣りへのモチベーションを向上させる。
大洗マリンタワーから見下ろした、大洗リゾートアウトレット。この施設も津波により大きな被害を受けたが、現在はリニューアルオープンし、活気を取り戻している。家族連れには特におすすめのスポットだ。
釣行前日に訪れた水族館、アクアワールド大洗内の「出会いの海」ゾーンに釘付け。水槽内のイワシの大群は、アングラーなら一見の価値あり。
飛鳥マリンクラブ
那珂川の河口から1キロほど上流にある、茨城海技学院内にあるマリンクラブ。シースタイル利用者のほとんどが釣りが目的で、この海に惚れ込んで通いつめるリピーターも多い。また、周辺には茨城県大洗水族館やアウトレットなどの施設もあり、家族連れでもボート遊びと行楽の両立が可能。都心から日帰りで楽しめる立地も魅力だ。
■交通アクセス
常盤自動車道友部JC→北関東自動車道(東水戸道路)
大洗ICから国道51号→国道245号利用(大洗ICから約15分)
■問い合わせ先
茨城県水戸市川又町1447
TEL:029-269-3077
営業時間:午前9時~午後6時(11~2月は午後5時まで)
定休日:無休(11~2月は水曜日)
http://www.ibarakikaigi.jp/