Vol.11 神奈川県・東京湾
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は神奈川県・東京湾のシャクリダイをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回のフィールドは"鴨居式シャクリダイ"で知られる東京湾の鴨居沖。実はここ、隊長の地元だったりする。隊長がロコアングラーとなってお送りする特別編なのだ。ボート倶楽部2006年3月号 [ 文:齋藤海仁 / イラスト:名取幸美 ]
初マダイで恩返し?
いつも強力なロコアングラーを迎えてお送りしているこの企画。昨年12月号の小名浜ではついにホンモノの漁師にまでご登場いただき、すっかり楽しませてもらいました。
その海のご当地釣法や釣りものを調べるのは釣査隊の大事な任務である。だから、ロコアングラーは欠かせない存在だけど、どこか釈然としないのもまた事実。広い海が舞台のボートフィッシングでは、ターゲットにはじまって、ポイント、釣り方、仕掛けなど選択肢は膨大だ。それを自分で判断してこそ達成感があるってもの。
そこで隊長は考えた。たまには自分がロコアングラーになって、ゲストに釣ってもらうのはどうだろう。これまでの恩返しの意味でもね。
隊長の地元は昔ながらのテンヤ釣法で知られる東京湾の鴨居。季節は秋である。この時期なら、いずれも鴨居名物のマダイとスミイカ(コウイカ)の2本立てでイケるはず。レンタルボートクラブの拠点は浦賀のサニーサイドマリーナ ウラガがすぐ近く。でもってゲストは......そういえば本誌編集長のクボやんがマダイを釣ってなかったっけ。ならいっそ、初マダイを伝統の"鴨居式シャクリダイ"で釣ってもらいましょうか。
てな話をクボやんにしたら「マダイ? いいねえ~」と即バイトした。ということで、今回はいつもと趣向を変えてお送りする特別釣査隊バージョンであります。隊長自身が案内役のため、解説がやや多い点はなにとぞご容赦ください。隊長がロコアングラーで大丈夫なのかって?それは隊長にもわかりませ~ん。
故郷の海はシケていた
鴨居沖といえば、関アジ、関サバに負けない特大のアジ、サバや、明石ダイに並ぶブランドマダイなど、極上の魚が釣れる豊饒の海。サニーサイドマリーナ ウラガはそんな海に面した一等地に陣取っている。
釣行日は11月中旬の大潮に決めた。コマセを使わないシャクリダイは、潮の動きが悪いと極端に食いが落ちる。基本的に大潮限定の釣りと考えたほうがいい。だからこの日をねらいすましたのだが、サニーサイドマリーナ ウラガに到着した釣査隊を迎えたのは季節外れの北風だった。
「吹いてるね、隊長」
「白波も飛んでますね」
海を見つめてボーゼンとする2人。11月にこんな北風が吹くなんて予想外だ。天気予報も風が強いなんて言ってなかったのに......。
これじゃマダイのポイントに行くのは無理。でも、釣り場が風裏になるスミイカならなんとかなりそう。ホント、マダイとスミイカの2本立てにしといてよかったよ。マダイは海況次第ってことにして、とりあえずスミイカねらいで出航する。
最初に向かった場所は、浦賀港を出て右手の水深20~30メートルの張り出しだった。ここは初期の定番ポイントで、いい年なら入れ乗りも期待できる場所なんだけど、おかしいなァ。しばらくシャクってもヒットはおろかファールチップすらない。
実は妙に潮が澄んでいるのが気になっていた。外潮が入りすぎているようだ。こうなるとスミイカよりもアオリイカのほうが断然いいんだよな。なんて考えてたら、隊長のサオにムニュリと来た。やけに軽いぞと思いつつ巻き上げると、釣れたのはテンヤとほぼ同じくらいの超ミニサイズ。いくら初期といってもこれじゃあなあ......。
この1パイを見て我々は急きょターゲットをアオリイカに変更した。念のためエギは持ってきたし、中オモリはマダイ用の鋳込みテンビンでなんとかなる。テンヤ釣法でスミイカを釣らせてあげられないのはクボやんに悪いけど、この状況ではシャクり続けるのは酷だもの。
アオリイカのポイントは藻が生えていて潮通しのよい岩礁帯だ。鴨居沖のおすすめは香山根周辺である。下げ潮が当たる馬の背の肩に到着して仕掛けを投入。すると、アオリイカを得意とするクボやんが1投目から良型をヒットさせた。こいつは幸先がいい。粘ればもっと釣れるのは確実。
しかし、である。いくらスミとアオリを釣っても釣査不足だろう。鴨居沖といえば、やはり伝統と格式を誇るマダイである。名物のご当地釣法で、脂が乗った落ちの"献上鯛"を釣ってもらわねば、クボやんにも、これまで登場してくれたロコアングラーにも顔が立たないよ。それに隊長がロコアングラーのときだけ本命が釣れないなんて、なにがなんでも避けなきゃならん。
まだ北風は吹いているものの、白波はだいぶ収まっていた。下げ潮の時合いはほぼ使い切っちゃったから、ここは上げ潮ねらいで早めにポイントを移動するのが賢明。そう考えて、アオリイカは深追いせずに沖へ出ることにした。
神風ならぬ神凪?
時期はもちろん、鴨居沖のマダイのポイントは潮の上げ下げによっても変わる。秋のおもなポイントは、下げ潮が第三海堡周辺なのに対して、上げ潮は鴨居の東側だ。つまり、上げ下げともに観音埼の潮上側というわけ。上げ潮ねらいの我々は鴨居の真沖、水深60~70メートルのポイントへ向かう。ちなみに、寄せエサを使わないエリアを守るため、久里浜アシカ島以北でのコマセマダイは禁止になっているのでくれぐれも要注意。
鴨居式シャクリダイの仕掛けは30号前後の鋳込みテンビンに2号の豆テンヤと実にシンプルである。エサはサルエビのいわゆる"エビタイ"釣法のひとつ。釣り方も単純で、底からハリス分を巻いてアタリを待つだけ。アタリがあったら即アワセが基本だ。
ポイントに到着すると、風も波もウソみたいに収まってきた。神風ってのは聞いたことがあるけど、これはなんていうのかな?神凪?ま、そんなことはどうでもいいや。これなら手前船頭もできる。さあ、マダイを釣るぞ! いや違った。釣らせるぞ!
一発目の魚は隊長に来た。ゴゴッと明確なアタリを合わせると強烈な手応え。こりゃデカイと思ったのも束の間、ノンストップのファーストランはマダイじゃなさそう。単調なヒキに疲れたころに顔を出したのは、この時期にしては珍しいエチオピア(シマガツオ)だった。やっぱりね。
シャクリダイを始めて間もなくヒットした猛ファイターはエチオピア(シマガツオ)だった。体がヌルヌルで持ちにくいうえ、手がすごく荒れるので、あまり体に触らないほうがいいです。
ああ、痛恨のハリス切れ
続いてカサゴやらアカエイやらクラカケトラギスやらいろんな魚がヒットしたけど、本命は音沙汰なし。それでも時は無情に過ぎてゆく。もともとアタリの数が少ない釣りとはいえ、そろそろヤバいなとアセりだしたそのときだ。
「きた!」
モゾモゾというアタリを逃さず合わせたクボやんのサオが大きく曲がった。激しくサオを叩くヒキはマダイに間違いない。しかも、まずまずの型だ。やった! ついに来たよ! マダイ初体験のクボやんは「これがマダイのヒキか!!」と叫びながら珍しく興奮している。ところが、鋭くノされたと思った瞬間、躍動するサオからいっさいの生命感が失われた。ウソ!! 切られた?
「あ~あ、しっかり結びを練習しておけばよかったよ。いつかこういう日が来ると思ってたんだ。釣りで悔しいと思ったことはこれまでなかったんだけど、この1尾は悔しい。とても悔しい」とクボやん。
仕掛けを上げたら本当にハリスが切れていた。でも、このヒキで切れるのは結びのせいじゃない。ドラグ調整およびやり取りのミスですね。キロ前後じゃ4号は切られないから、まさに"逃がした魚は大きい"ってヤツだ。みんなそうやって一人前になっていくんだから、授業料と思って諦めるしかありません。
それにしてもこのバラシには参った。ただでさえアタリが少ない状況でのハリス切れ。クボやんが一番悔しいのはわかっちゃいるけど、正直言って、釣らせる側としてもけっこう痛い。残り時間はあとわずかだ。釣るクボやんも釣らせる隊長も一気に青ざめたことは言うまでもない。
だが、故郷の海は決して隊長を見捨てなかった。結論から言うと、見事クボやんがもう一度マダイを掛けて、今回限りの特別釣査隊はなんとか任務をまっとうした。生まれて初めてマダイを釣ったクボやんはすっかりエビス顔。これだけ喜んでもらえると、釣らせ役も楽しいね。本命が釣れてホントによかったよ!やれやれ。
難しいイメージのあるエビタイだけど、時期と日並みを選べば型くらいは見られるもの。エビタイ釣法にはほかに、軽い中オモリを使う内房式や、テンヤだけの釣り方、スピニングという手もある。それぞれに一長一短、また、独特の面白さがあり、サニーサイドマリーナ ウラガから出船して自分なりのポイントや釣り方を開拓しても面白いだろう。おまけに鴨居のマダイは最高にうまいからね。
隊長もときどきサニーサイドマリーナ ウラガ出船のレンタルボートで鴨居沖に浮いているので、沖で見かけたらぜひ声をかけてみてください。
【隊長:齋藤海仁(かいじん)】
釣行前夜に宿でテンヤを作る隊長。2人分だから多めに用意しておかないとね。ちなみに、見栄えをまったく気にしない隊長のテンヤは、5分でできる超簡易版です。
【ゲストアングラー】
窪田 英弥(くぼた・ひでや)さん
マダイを釣ったことがない、ご存じ『ボート倶楽部』編集長。マイネット持参でやる気まんまんだけど、このときはまだシャクリダイの厳しさなど知る由もなし。たしかに「マダイが釣れます」と誘ったのは隊長ですがね。
背景の岬が観音埼。観音埼~富津間は東京湾の最狭部。だから、潮がすこぶる速いのだ。
思いのほか北風が強かったので、まずはスミイカねらいで出航。魚種が豊富でいろんな釣りが楽しめるのも鴨居沖のいいところ。
スミイカとマダイのテンヤ仕掛け。テンヤの釣りは古くから鴨居に伝わる伝統釣法。ハリにオモリが付いているので操作しやすく、また、ダイレクトな釣趣も大きな魅力。
【レンタルボート】
今回のレンタル艇はヤマハYF-21CC。キールのように張り出したウェーブスラスターブレード(WTB)のおかげで低速時の保針性にすぐれ、流し釣りが快適に楽しめる。
操船席の脇に設置されていたロッドラック。ちょっとサオを休めたいときに重宝する。一見なんてことない艤装だけど、このポジションは釣りがよくわかっている証拠。
最初の釣果は隊長がテンヤで釣ったスミイカ。テンヤの大きさと変わらないミニサイズにびっくり。
お次はまったく引かないカサゴのダブルヒット。こんなカサゴが釣れる場所はマダイのポイントでもある。で、本命はどこへ行った?
地元相模湾で釣り慣れているクボやんが1投目からアオリイカをキャッチ。秋にしてはまずまずのサイズだ。
痛恨のハリス切れの後、首尾よくキャッチしたマダイにクボやんはすっかり上機嫌。隊長も心底ホッとしたよ。隊長がロコアングラーのときだけ本命が釣れないなんてヤバすぎるもの。
終了間際についにマダイがヒット。水深70メートルは長い。ハラハラドキドキのファイトの末、ようやくボート際に寄せた。
釣果カレンダー
観音埼~剱埼という東京湾のゴールデンエリアだけあって、とにかく魚種が豊富。また、地形が複雑で、ビギナーからベテランまで楽しめる実に懐の深い場所である。マダイの好期は乗っ込みから12月まで。初期は南寄りの剱埼周辺、落ちの時期は鴨居沖がいい。また、秋に青ものの群れが入ってくると、アシカ島や香山根周りで大釣りが期待できる。その他のターゲットのポイントも数多く点在している。
東京湾南西部のフィールドマップ
このエリアで注意すべきは風向きよりも障害物だ。かもめ団地前にはワカメ、コンブ棚があるので、観音埼方面からマリーナに戻るときは必ず大回りで。また、金田湾南側の定置網には近寄らないこと。アシカ島~笠島間は非常に浅く、航行は禁物。野比海岸沖には陸地と平行に浅瀬が点在する。陸地と直角に出入りしよう。もちろん、浦賀港内は徐行すること。
前半の釣果。なぜかお肌ヌルヌル系が大集合。
後半のおもな釣果。こちらは見た目もよく、おいしい魚たち。
今回のエサは横浜横須賀道路衣笠IC近くの「横須賀釣餌センター本店」で購入した。エサの種類が豊富で、予約すればコマセの解凍にも応じてくれる。冷凍エビ、冷凍シャコの場合も事前に予約したほうがいい。
住所:神奈川県横須賀市衣笠町136-101
TEL:046-835-4365
■営業時間 24時間営業 年中無休(臨時休業あり)
マリーナには海の見えるレストランもある。名物のよこすか海軍カレー、黒船シチューのほか、各種アラカルトやコース料理もある。リーズナブルな価格で人気のレストランだ。
TEL:046-843-6159
サニーサイドマリーナ ウラガ
目の前に好ポイントがひしめく抜群の立地を誇る。おかげで釣り好きのお客さんが多く、新鮮な釣り情報が充実。各種レンタルタックルも揃っている。レンタル会員はシャワールームを無料で使えるなど、アフターフィッシングも快適。
■交通アクセス
車利用=横浜横須賀道路「佐原IC」または「衣笠IC」から約20分
電車利用=京浜急行本線「浦賀」駅から徒歩約15分
■問い合わせ先
〒239-0821 神奈川県横須賀市東浦賀2-22-2
TEL:046-843-4123
URL:http://www.ssm-uraga.jp/
全艇陸上保管で、45フィートまでの大型艇にも対応。
前身が造船所で、メカニックの腕前もウリ。クラブ艇はUF-21カディとYF-21CCの2艇。
周辺の海のことならおまかせという上原康正(うえはら・やすまさ)さん。温和で誠実な心やさしきハーバーマスターだ。
今回使用したタックル
手前船頭での使い勝手を優先し、専用ザオよりもやや胴に乗るタイプのオールラウンドロッドに小型電動リールをセットした。多少胴まで入るサオは、食い込みがいい分、釣りに専念できないハンディを補ってくれるし、応用範囲が広いから、急なターゲット変更でも安心だ。また、仕掛け回収時に片手が空く電動リールはとても助かる。手巻きの場合は小型両軸受けリールでOKだが、負荷が大きいので、ドラグとギアのしっかりしたものを選ぼう。
【ROD】
ダイワ・リーディングXA-82(左)は、軽さと感度を重視した8対2の先調子設計。アタリを取って合わせる釣りに適した、さまざまなターゲットに使える汎用胴付きロッド。
●全長:1.90m
●継ぎ数:2本
●自重:160g
●オモリ負荷:40~130号
ダイワ・リーディング-XA73?U(右)は、7対3調子のシロギスザオのように繊細な穂先と大物にも対応する強さを持ち合わせた、操作性の高いライトゲームロッド。
●全長:2.05m
●継ぎ数:2本
●自重:155g
●オモリ負荷:15~60号
【REEL】
ダイワ・シーボーグ250FB(左)は、手前船頭の流し釣りに最適な超小型電動リール。ハンドル1回転の巻き取りが72cmと、手巻き時もストレスなく使える。
●イト巻き量:PE3号300m
●自重:515g
ダイワ・ラウル150L早技(右)は、スーパースプールフリー、棚クラッチなど、ツボを押さえた船用小型両軸受けリール。国産ボートの手前船頭に最適な左ハンドルモデル。
●イト巻き量:PE2号200m(エコノマイザー使用時100m)
●自重:280g
●巻き取り長さ:61cm/回転
コードレスバッテリー「BM2000」を装着すれば、コードが動きを妨げないので船内の移動も自由自在楽々。ボートフィッシングに好適なアイテムだ。
●容量:2Ah