Vol.38 広島県・鞆の浦
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は広島県・鞆の浦のアオリイカ・シロギス・マダイほかをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回は、江戸時代に潮待ちの港として栄えた面影を色濃く残す、「鞆の浦」に至近の広島県・中国マリンを釣査。海からの観光&ボート釣りを満喫した。ボート倶楽部2012年12月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
マダイねらいは大潮に
シースタイルを利用するため各地のホームマリーナを訪問すると、その土地ならではの味わいに舌鼓を打ったり、文化や歴史に触れたりと、ボートフィッシング以外の部分でも充実した旅となる。
今回訪問するのは、瀬戸内海のほぼ中心に位置する、広島県福山市の鞆の浦。この周辺の海は、潮汐に特徴がある。満潮に向かうときには、紀伊水道から流れ込む潮と豊後水道から流れ込む潮が互いにぶつかり合う。干潮へ向かうときには、それらが東西へ分かれるような潮流が発生する。そのため、干満差が最大4メートルにも達することがあるのだ。
時間帯によっては極端に潮流が速くなることがあるので、推進力が低い船舶が安全に、そして効率よく航海するため、むかしは鞆の浦を潮待ちや風待ちの港として利用していた。
今回お世話になったシースタイルのホームマリーナは、鞆の浦に隣接する「中国マリン」。最新の釣り情報を入手しようと事前に連絡を入れてみると、
「マダイがねらえますが、釣果が潮回りに左右されるので、大潮前後に来られたほうがいいですよ」
とのこと。そういえば、瀬戸内海はその名のとおり内海なので、大潮や小潮、つまり潮の大きさによって魚の活性が著しく変化するという話は、以前どこかで聞いたっけ。
というわけで、大潮となる9月中旬に釣行計画を立てた。ところが、あいにく台風が近づいたため1週間の延期を余儀なくされ、小潮の日に釣行せざるを得なかった。
なぁに小潮だって魚は釣れるさ、過去に釣果に恵まれたことだって何度もあるし......。ふだんのホームゲレンデが内海ではなく、外海だということをすっかり忘れ、そう楽観視して取材当日を迎えた。
福山に到着した日は釣りをせず、鞆の浦を観光。といっても小さな港町なので、半日あれば十分だ。それでも、この地が脚光を浴び続けている理由を知っておく必要がある。いろいろ調べてみると、大変興味深い、歴史的な出来事が存在していた。古くは万葉集にも、鞆の浦を詠んだ歌が残されているらしい。
一般的に、歴史は陸上が舞台になることが多いが、ここ鞆の浦に残る史実は海における出来事が多い。なかでも私が最も興味を持ったのは、1867年に起きた「〈いろは丸〉と、〈明光丸〉の衝突事件」。坂本龍馬ら海援隊が乗っていた〈いろは丸〉と紀州藩の軍艦〈明光丸〉が六島付近で衝突し、自力航行不能になった〈いろは丸〉を〈明光丸〉が曳航して鞆の浦をめざし、途中の宇治島付近で沈没したとのことである。
六島も宇治島も、今回利用するシースタイル艇の航行エリア内の島であり、〈いろは丸〉が沈んだ海域で釣りイトを垂らせると思うと、なんとも不思議な気分になる。
海に浮かぶ感動を再認識
鞆港を散策すると、江戸時代当時の港湾施設をそのまま残している常夜灯や雁木を見ることができ、当時にタイムスリップしたような気分になる。また最近では、鞆の浦が宮崎 駿監督のジブリ映画『崖の上のポニョ』の舞台のモデルになったとして脚光を浴びたらしいが、その映画を見ていない私には、なんのことやらさっぱり。まぁ、いずれにしても小さな港町ではあるが、全国から観光客が訪れる名所となっていることは事実である。
夕方、中国マリンに立ち寄り、翌日からの実釣取材の打ち合わせをした。今回の取材でロコアングラーを引き受けてくれるチーフマネージャーの森上秀人さんが、クラブ艇の利用説明と、釣り場や釣りもの、釣法についても詳細に説明してくれた。
相談の結果、実釣1日目は芸備群島方面にてアオリイカとシロギスをねらい、実釣2日目に笠岡諸島でマダイをねらうことに決定。聞けば、森上さんは休日ごとにマイボートのヤマハYF‐23で瀬戸内海を縦横無尽に走り回り、ボートフィッシングを楽しんでいるとのこと。どうりで詳しいわけだ。
翌朝は、天候、海況ともに、最高の取材日和に恵まれた。クレーンで降ろされたYF‐21に桟橋から乗り込み、南西方向へボートを進めた。瀬戸内海は多島海なので景色に変化があり、釣り場へ向かうまでのクルージングもなかなか楽しい。
「鞆の浦への観光ついでに、シースタイルでクルージングを楽しむ遠方からの利用者も多いですよ」と森上さんが聞かせてくれたが、そのすばらしい景色を見て納得。たしかに、シースタイルの利用目的はフィッシングばかりではないはず。鞆の浦を海側から眺めれば、坂本龍馬と同じ景色を眺めることになるし、『ポニョ』に登場する崖の上の家が本当にあるのかを探してみるのもおもしろいだろう。
うーむ、ボートに乗るといつも魚探ばかり見ていたが、鞆の浦ではボートに乗る行為自体が楽しいと感じずにはいられなかった。
毎回感じることだが、初めての釣り場へ向かうときのワクワク感がたまらない。特に今回の瀬戸内海では美しい島々の間を航行するので、クルージング自体も存分に楽しめる。
多島海域ではどこかしらの陸地が近くに見えるので、初めての海域でも安心してボートフィッシングが楽しめる。
魚やイカのゆりかご!?
まずは、田島付近の浅場で、アオリイカをねらった。暗岩に注意しながらボートで浅場を流し、エギを島へ向けてキャストする。シャッ、シャッ、と小気味いい音を立てながらシャクリを入れる森上さんを見て、「この人、かなりエギングの経験を積んでいる......」と感じた。
案の定、すぐさま1パイ目のアオリをキャッチ。そのアクションに感心し、盗み見していた私のロッドにアタリが届いた。といってもキャストしていないのにナゼ? と振り返ると、船べりから垂らしたままになっていた水面近くのエギに、アオリがちょっかいを出していたのだ。
「えーっ、こんなことってあるの?」
とビックリする私に、
「そうなんですよ、この時期はどの島周りでも浅場はアオリの宝庫です。活性が高いと、水面まで積極的にエギを追ってきますよ」
と教えてくれた。小気味いいシャクリができずに思い悩んでいた私に、ひと筋の光が差した瞬間だった。
何度かキャストを繰り返すうちに、ついに私のエギにもアオリイカがヒット。サイズは手のひら級の小型だが、妙にうれしい1パイだった。ほかの島へ移動しても、森上さんの言うとおり、アオリイカは釣れ続けた。
波打ち際まで20メートルほどの距離にボートを近づけ、シャローエリアのアオリイカをねらった。開始早々に、森上さんがアオリイカをキャッチ。
「初めて入ったポイントだったので少し不安でしたが、やっぱりいましたね」と、森上さんはほっとした表情を浮かべた。
森上さんのアクションを見よう見まねで、1パイ目をゲット。正直言ってホッとした。
アオリイカを追釣できたことで、なんとなく要領をつかめた気になったが、実は魚影がすこぶる濃かっただけのこと......。
その後、岩城島に着岸して絶品のランチを楽しんだあと、午後は島周りの砂地でシロギスをねらったが、これが思いのほか苦戦した。投入すればすぐにアタリが届くのだが、釣れてくるのはシロギスではなく、なんと、マダイばかり。といっても、釣具店のレジ前でよく売られている、キーホルダーそっくりの極小サイズばかりだった。
マダイを避けようと、ボートを中心に四方八方へキャストしても、その極小マダイばかりが釣れてしまう。おそらく、島周りの浅場に産卵場があり、付近一帯がマダイやアオリイカのゆりかごになっているに違いない。
少しずつポイントを移動することでシロギスも顔を出し始めたが、圧倒的にマダイのほうが多く掛かってしまう。この幼魚の多さや、小潮でも食ってくる活性の高さからすれば、明日のマダイねらいではいい釣りが期待できそうだとワクワク感を募らせ、実釣1日目を終了した。
本当に見所が多い海域だ。森上さんは、私が操船しながら興味を示した景色一つひとつを解説してくれた。
森上さんがインチクにてイイダコを釣り上げた。「瀬戸内海はイイダコ釣りも盛んなんですよ」と教えてくれた。
タイラバー釣法の真っ最中。この景色のなかでサオ先だけに集中しているのはもったいない、と感じるほどだった。
森上さんは、ベイトタックルのジギングロッドを流用してシロギスをねらっていた。アタリが取りにくいはずだが、しっかり結果を出していたのはさすが。
25センチ近くあった良型のシロギス。ジギングロッドをしっかり曲げて抵抗していたのが印象的だった。
シロギスよりも先にエサを食ってしまう魚の正体はマダイだった。この時点では「小潮でもマダイが釣れるじゃん」と思っていたのだが......。
再訪を誓う鞆の浦
実釣2日目は、鞆の浦から東方面へボートを進め、笠岡諸島へ向かった。水深30メートルほどのポイントで、タイラバーを使って実釣スタート。
開始早々、森上さんのロッドにアタリが出たが、食い込まずに不発。その悔しがる姿を尻目に、次のアタリは私がいただく......なんて思いながら、一定のスピードでタイラバーをリトリーブ。ところがそんな期待とは裏腹に、一向にアタリが訪れず、時間だけが経過した。
朝のうちは「いまはちょうど潮止まりの時間帯ですからね」と、アタリがないことを潮止まりのせいにしていたが、潮が動き始めてからも状況が変わらないことに、われわれは少しずつ不安を感じ始めていた。
活性が低くてタイラバーを追わないなら、エビエサを使った一つテンヤのほうが効果的かもと思い、釣法を切り替えたがそれでもダメ。さらには、タイラバーに冷凍エビを付けてみたりと、あらゆる手を尽くしてみたが全然ダメ。
途中、釣り運を引き寄せるために、サビキ仕掛けにてアジやママカリ(サッパ)をねらってみることにした。こちらはすこぶる活性が高く、サビキ仕掛けのハリ数分だけ、魚が掛かってくることに歓喜した。
サビキ仕掛けを降ろすと、小アジや小サバ、サッパなどが鈴なりになった。
ママカリで気分転換できたので、再びマダイねらいをスタートさせたが、先ほどまでの状況となんの変化もないまま、沈黙の海が続いた。
次第に、事前の情報収集の段階で中国マリンの社長が言っていた、「マダイねらいなら大潮に来て」という言葉の重みがわかってきた。
チクショー、なにがなんでも釣ってやる縲怩ニ、サオ先に神経を集中しつつ粘り続けたが、結局マダイの姿を見ることなく、涙のストップフィッシング。今度は大潮のときにリベンジ釣行するしかない......と心のなかでつぶやきながら、マリーナをめざした。
桟橋に着岸したとき、「しまった!」と、青ざめた。
マダイをゲットしたいという一心で釣りに夢中になりすぎ、事前にあれだけ楽しみにしていた〈いろは丸〉の衝突現場や、沈んでいるであろう海域を見て回ることを、すっかり忘れていた。あぁ、やっぱりもう1回来なくてはならない場所である。
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の講師を務める。著書に『必釣の極意』(舵社)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/
【今回のロコ・アングラー】
取材に協力してくれたロコアングラーの森上秀人さん(40歳)。休日にはマイボートで瀬戸内海の釣りを楽しんでいるという。
当マリーナのクラブ艇は、90馬力船外機を搭載したYF-21。瀬戸内海でのさまざまなフィッシングに対応できる、使い勝手のいいボートだ。
シースタイル艇に装備されていたGPS魚探は、ホンデックス「HE-71GP」。迷いやすい多島海域では、GPSプロッターがあれば安心してクルージングできる。
今回は使用しなかったが、アンカリングする場合にも、三方ローラーとウインドラスの装備があるので楽々だ。
中国マリンでは、陸置き保管のボートをクレーンで海に浮かべ、人は桟橋から乗り込むことになる。
医王寺の太子殿から望む鞆の浦はすばらしく、仙酔島(せんすいじま)や遠くは燧灘(ひうちなだ)まで見える絶景だ。こんな海をボートで自由に走り回れるなんて最高!
鞆の港から続く石畳の路地には、むかしながらのさまざまなお店が軒を連ねていた。見て回るだけでも本当に楽しく、むかしにタイムスリップしたような気分になる。
鞆港に立つ「常夜灯」は、江戸時代からフネの出入りを誘導してきた、鞆の浦のシンボル的存在だ。
初めて利用する際には講習用DVDを見るとともに、航行エリアや危険箇所についてもしっかりスタッフの指示を聞いておくこと。
YF-21の前部スペースは足場が広々していて、2人で並んでエギをキャストすることができた。
タイラバーはベイラバー45グラム。エギはエメラルダス・ラトル3号(いずれもDAIWA製)
左のタイラバー用タックルは、万一の大物にも対処できるように、専用ロッドとドラグ性能に優れた小型両軸受けリールをセット。右の一つテンヤ用タックルは汎用性が高く、荷物を減らしたい遠征釣行の強い味方だ。
昼食のために立ち寄った、航行エリアの西の端に位置する岩城島。「青いレモンの島」というキャッチフレーズのとおり、かんきつ類が特産品とのこと。
岩城島の「活魚・民宿 よし正」は、事前に予約しておけばボートで乗りつけることも可能。こんな場所があるだけで、ボーティングの楽しさは何倍にもなる。
今回は、瀬戸内の新鮮な魚介類をふんだんに味わえるちょっと豪華なランチをいただいたけれど、リーズナブルな定食などもおいしい「活魚・民宿 よし正」。おすすめです。
実釣1日目のおもな釣果。もちろん、小さなマダイはすべてリリースしたし、並べなかったアオリイカもたくさんいました。
鞆の浦は、江戸時代の港湾施設である「常夜灯」「雁木」「波止場」「焚場(たでば)」「船番所」のすべてが全国で唯一残されている港。シースタイル艇でこの港内に入ると、タイムスリップしているような気分だ。
実釣2日目のおもな釣果。アジ、サッパ、イイダコ。マゴチは砂地の場所で、一つテンヤ仕掛けの置きザオにヒットしたもの。
鞆酒造の店舗で、日本古来の薬味酒「保命酒」を試飲した。口当たりがよく、旅の疲れが抜けていくような気がした。
食事処「おてび」では、人気メニューの中華そばをオーダーした。野菜がたっぷり入っていて、どことなく懐かしい味がするスープだった。
釣果カレンダー
穏やかな瀬戸内海では一年中ボートフィッシングが楽しめ、四季折々いろいろな魚がねらえる。多島海域で島周りには岩場が多く、メバルやカサゴといった根魚の宝庫だ。また秋口にはアオリイカの数釣りが楽しめる。島と島の間には砂地も多く、シロギスやコウイカ、イシモチがねらえる。また、好期を選べばマダイや青ものもねらえるが、潮汐が釣果を左右する海域なので、いい潮回りを選んで釣行したい。
鞆の浦周辺のフィールドマップ
東側の笠岡諸島と、西側の芸備群島に挟まれた海域がおもな航行区域で、東西方向に大変広い。多くの島々や陸地に囲まれているので海が荒れにくい上に、多島海ならではの景色のよさが特長だ。とはいえ、潮汐による速い潮流と、干満差が大きいので、浅場の航行には十分注意すること。マリーナスタッフから、危険箇所や航行上の注意点などを事前に聞いておこう。
当地を訪れたら必ず立ち寄りたいのが、創業300年を超えるという澤村船具店。鞆の浦の一等地に店舗を構え、フネに興味がない観光客も足を止める。
広島県福山市鞆町鞆907
TEL:084-982-2003
漁船を所有していて、目の前の海で新鮮な食材を調達してくることも多いという「活魚・民宿 よし正」。
愛媛県越智郡上島町岩城1540番地
TEL:0897-75-2267
釣具店に寄るなら、マリーナから車で10分ほどのところにある「レジャックス福山本店」が便利。
土、日祝日は朝6時から開店しているのでありがたい。
広島県福山市西新涯町1-11-5
TEL:084-957-7676
地元の小魚をいろいろな調理法で仕上げたお総菜が名物の、鞆の浦の商店街にある食事処「おてび」。地元の方にも人気が高い
広島県福山市鞆町鞆838
TEL:084-982-0808
中国マリン
約50年にわたって福山市内で二輪や船舶の販売修理を手がけてきたが、平成23年3月、現在の場所へ本社とマリーナ機能を移し、よりキメ細かなマリンビジネスを展開している。穏やかな海域なので安心してボートフィッシングが楽しめ、観光名所の鞆の浦に近いということもあって県外からのシースタイル利用者も多く、フィッシングとクルージングの両方を楽しめる。
■交通アクセス
山陽自動車道、福山東インターから南方面(鞆方面)へ約20分
■問い合わせ先
広島県福山市鞆町後地651番地3
TEL:084-970-5405
営業時間:午前9時~午後6時
定休日:毎週火曜日
http://www.chugoku-j.co.jp/
クラブハウスを一新して昨年3月に営業をスタートさせた中国マリンは、信頼のヤマハ・トラストショップだ。
中国マリンの代表取締役、森上 徹さんは、ロコアングラー森上秀人さんの実のお兄さん。シースタイル担当の三宅史帆さんは、笑顔がすてきなマリーナの看板娘だ。
今回使用したタックル
アオリイカやシロギスねらいのキャスティングの釣りには、一つテンヤ用のスピニングタックルを流用。タイラバーでのマダイねらいや、サビキ仕掛けでの小物ねらいには小型両軸受けリールをセットしたタイラバー用タックル。今回はすべての釣りにこの2セットで挑んだ。良型のマダイがねらえるだけに、ランディングネットをお忘れなく。