Vol.35 岡山県・牛窓
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は岡山県・牛窓のマダイ、シロギスほかをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
今回は岡山県・牛窓の、ナスボート牛窓マリーナを釣査。瀬戸内ならではの多島海で、釣り、クルージング、寄港を存分に楽しんできた。ボート倶楽部2012年3月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
日本一雨の少ない牛窓
小柳ルミ子4枚目のシングル「瀬戸の花嫁」がヒットしたのは、いまから40年も前のこと。この曲をリアルタイムで知っている私は、当時小学2年生だった。ヒット曲なので歌詞も全部知っているが、瀬戸がどのあたりなのかも知らなかったし、そんなことに興味もなかった。
そして40年の時を経て、初めて岡山県瀬戸内市を訪れた。ところがその時点ではそんな歌のことなどすっかり忘れ、ご当地釣法の「チョクリ釣り」でマダイを釣ることばかりを考えていた。
今回ヤマハマリンクラブ・シースタイルを利用して釣査をするのは、日本のエーゲ海ともいわれている牛窓という港町にある、「ナスボート牛窓マリーナ」である。
訪問すると、今回のロコアングラーも引き受けてくれる那須裕史社長が、「待ってました」とばかりに笑顔で迎えてくれて、さっそく翌日の釣りに関する打ち合わせを行った。海図を用い、クラブ艇の航行区域や魚種ごとの釣れるポイントなどを、事細かに説明してくれた。
那須社長はとてもフレンドリーで、話の内容が大変おもしろく、その話術にどんどん引き込まれていく。コチラからのマニアックな質問に対しても、歯切れのいい明快な答えが返ってくるので気持ちがいい。そして、聞けば聞くほど、かなりの釣りマニアであることもわかってきたので、翌日の釣りが本当に楽しみになってきた。
打ち合わせのあと、観光名所巡りに出発しようとしたら、「オリーブ園に行きましょう。私が案内しますから」と、那須社長が案内役を買って出てくれて、面倒見のよさも実感した。
オリーブ園は、牛窓を代表する観光名所で、オリーブの木がたくさん植えられた小高い丘の中腹に展望台があり、眼下に瀬戸内海が広がっている。小豆島や、遠くは四国の屋島まで見える、すばらしい景観だ。小さなフネが航跡を残しながらゆっくり動いているのが見え、忘れかけていた「瀬戸の花嫁」を思い出し、心のなかで口ずさんだ。
展望の途中でポツリポツリと雨が降りだし、大あわてでクルマに戻ったら、「岡山は降雨量が日本一少ない県なんですよ。そのなかでも牛窓は特に少ない所なんです」と那須社長。
「へぇ~」と感心していると、「この日本一雨が少ない牛窓に雨を降らせたんだから、みなさんはよほど日ごろの行いがよろしいようで......」というブラックジョークも飛び出した。それに対し、「大丈夫です。明日の実釣時は晴れますから!」と、まるで旧知の間柄のように話が弾んだ。
海沿いの狭い道を走っているとき、「以前は小さな造船所がたくさんあり、遊郭まであったんですよ」と聞かせてくれた。「えーっ、いまはもう遊郭は存在しないんですか?」とはさすがに聞けなかった。
日本のエーゲ海と呼ばれる牛窓の景色を楽しむには、晴天の日中が最高だろうけれど、「瀬戸の花嫁」が歌われた40年前とさほど変わらなそうな風景に、しばし見とれる。翌日はこの海に浮かぶのだ。
近場でも魅力いっぱいの海
翌朝、約束の時間にマリーナを訪れると、空は曇天で、やや強い西風が吹いていた。那須社長と協議のうえ、出航を少し遅らせることにした。また、チョクリ釣りでマダイをねらうポイントまで行けない可能性があるので、近場でも釣りができるよう、アオイソメを用意することで話が決まった。
マリーナで1時間ほど談笑していると、風がいくぶん収まったようなので、いよいよ牛窓の海に出航した。マリーナを出てしばらくは、周囲を島に囲まれている海域なので波は静かだったが、少し外へ出ると、まだかなり波立っていた。
「やはり小豆島方面のマダイポイントまでは行けませんね。ここらで小物釣りを楽しみましょう」と言って、前島と黄島の間の水路で船速を落とした。魚探を見ると、水深30メートルほどの岩礁地帯で、宙層には濃い魚群反応が映っていた。
同エリアには、ナスボートのオーナー艇が先に浮かんでいたので、那須社長が声をかける。すると、ママカリ(サッパ)を泳がせてスズキをねらっているとのこと。そして、いま魚探に映っている宙層の反応が、ママカリであることを教えてくれた。そうか、せっかく岡山へ来たんだから、ご当地名物のママカリを釣るためのサビキ仕掛けを用意すべきだった......と後悔した。
やむなく、アオイソメを付けたシロギス仕掛けで実釣をスタートしたが、案の定、宙層のママカリには見向きもされず、サッパだけにサッパり釣れない。まもなく、那須社長がカサゴを釣り上げ、私にはハオコゼがきた。
気がつくと、先ほどのオーナー艇でサオが大きく曲がっていた。状況を見守っていたら、50センチほどのヒラメがタモ取りされた。うらやましさとともに、近場とはいえ魅力的な海であることを実感し、コチラもがぜんやる気が出た。
実釣開始早々、那須社長がカサゴを釣り上げた。「こんなに小さくても、写真撮るの?」と苦笑い。
先着のボートがヒラメを取り込んだ。ママカリ(サッパ)の泳がせ釣りで、スズキをねらっていてヒットしたとのこと。うらやましい......。
しかし、このポイントは根が険しく、シロギス仕掛けでねらうと根掛かりが頻発する。そこで釣り場を青島寄りの砂地へ移動し、今度は仕掛けを遠投して探ることにした。
まもなく、やや強いアタリが届いた。軽く合わせると、サオ先をたたく小気味いいヒキが伝わってくる。期待に胸を膨らませてリールを巻くと、小型ながら美しいマダイが釣れた。サイズ的に小さく、またチョクリ釣りでの釣果ではなかったが、やはりこの魚に出合えると、本当にうれしい気持ちになる。
慎重にやり取りした割には、チャリコ(小型マダイ)だったので、那須社長にからかわれてしまった。
正午過ぎ、風がやや収まってきたので、小豆島の福田湾へ向かうことにした。最初のポイントから30分ほどで到着したこの海域はチョクリ釣りの実績が高く、那須社長のお気に入りの場所とのこと。
さっそくチョクリ仕掛けをセットし、投入する。すると、まだ1投目だというのに、なんだか海面がざわつき始め、一気に海況が悪化した。
「これは早めに引き返さないと帰れなくなるな。残念だけど引き返そう」
案の定、マリーナに到着するころには全身かなりズブ濡れ状態。あのとき帰港を決断していなかったら......と考えると恐ろしい。那須社長の的確な状況判断であった。
多彩なボート遊びを満喫
翌日は、朝から天候と海況に恵まれた。そこで朝イチから、前日に1投しかできなかった福田湾へ向かった。途中、瀬戸内海ならではの多島美を満喫しながらでも、前日に比べて波静かな状況なので、マリーナから航程30分ほどで到着した。
さっそくチョクリ釣りに挑戦だ。那須社長の教えを守り、着底した仕掛けをゆっくり一定速度で巻き上げるが、その速度はタイラバー釣法よりもさらに遅い、1秒あたり0.5メートルほど。本当にこんなアクションで釣れるのだろうか?まぁ、どんな釣法でも最初は不安になるものだし......と自分に言い聞かせ、黙々とリールを巻いた。
YF-21CCの後部スペースは広く、釣りやすさ抜群。8メートルもの長い仕掛けを扱うチョクリ釣りでは、その広さがとてもありがたく感じた。
とはいえ、なにも釣れないまま時間だけが経過した。周りにプレジャーボートが数多く浮かんでいたが、どのボートも苦戦している様子だ。
11時過ぎ、那須社長の「来ましたよーっ!」という声に振り返ると、サオが曲がり、ニコニコ顔だ。そして私が差し出すタモに収まったのは、30センチほどのきれいな瀬戸内マダイ。那須社長もホッと胸をなで下ろした様子だった。
同行した山岸カメラマンが、ヒットしたマダイの水中撮影に挑戦。撮影している間にバレたら、どう責任取るんだよ~(笑)。
楽しいおしゃべりをしながらも釣りに集中していた那須社長のチョクリ仕掛けに、ついに本命がヒット。30センチほどの美しいマダイだった。
取材で本命をキャッチし、安堵の表情を浮かべる那須社長と、「チョクリ釣りって本当に釣れるんだ」と感心する私。私もなんとかご当地釣法でマダイを釣ってみたい。
その後、小一時間ほど粘ってみたが、結局マダイはその1尾で終了。うらやましさも悔しさもあったが、半信半疑でやっていたチョクリ釣りで実際に釣り上げる瞬間を見ることができたので、私自身、ある種の満足感が得られた。
その後、昼食を取るため小豆島に上陸した。福田湾の隣、吉田湾の奥に位置する「シータイガー・アイランドイン」は、まるで南国リゾートのような寄港地だ。レストランもあり、ランチはリーズナブルな価格だったが、なんだかとてもリッチな気分で空腹を満たすことができた。
昼食後は、航程15分ほどの所にある、「みなとオアシス大坂城残石記念公園」にも立ち寄った。海からの訪問者向けに浮桟橋(ビジターバース)が利用でき、資料館には大坂城築城当時の石の切り出しや運搬方法がわかりやすく展示されていて、当時の労働者の苦労を目の当たりにした。
そして最後は、千振方面の浅場でシロギス釣りを楽しんだ。活性が低く苦戦したが、なんとか型を見ることができ、ホッとした。
千振方面でのシロギスねらいでも、那須社長がマダイを釣り上げた。大学時代には学釣連に所属し、各地でさまざまな釣りに挑戦してきただけに、その腕前もかなりのものだ。
活性が低かったシロギスだが、ポイントを広く探って、なんとか型を見ることができ、ホッとした。
そういえば小豆島の西側、ちょうどこの辺りが「瀬戸の花嫁」の舞台になった場所だという説があり、そのことを思い出した途端、またしても心のなかで歌詞を口ずさみつつ、マリーナをめざした。
釣りあり、クルージングあり、お食事あり......こんなにも内容が盛りだくさんなボーティングを経験したのは、私自身、今回が初めてだった。本連載のタイトルは「釣査隊」だが、今回に限っては「調査隊」のほうが合っているかもしれない。それだけ充実したボーティングができる牛窓へ、みなさんも出かけてみませんか?
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年東京生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の企画・運営に携わる。著書に『必釣の極意』(舵社刊)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。本誌に「Nonoの旅」を連載中。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/
【今回のロコ・アングラー】
ナスボート牛窓マリーナの那須裕史社長に、ロコアングラーをお願いした。根っからの釣り好きなうえ、さらにおしゃべり好きだったので、とても楽しく釣りができた。
ナスボート牛窓マリーナのクラブ艇は3艇あり、今回の取材では、スペースが広く、取り回しのいい、YF-21CCで釣りを楽しんだ。
家族連れに人気が高い、24シエスタFV。釣りをしない家族が一緒でもボート遊びを楽しんでもらえる、快適なボートだ。
波静かな海域なのでウェイクボードも盛ん。AS-21WBは、そんなウェイクボーダー御用達のボートだが、意外と釣りもしやすい。
装備されていたGPS魚探のプロッターに、おおよそのエリアを表示してみた。多島海で迷いそうだが、すべてのクラブ艇にはGPS魚探が完備されているので安心だ。
牛窓のオリーブ園内に設置された双眼鏡で、瀬戸内の島々を眺める。背後に見える「オリーブ荘」では、オリーブオイルや化粧品などのオリーブ製品が買える。
ナスボート牛窓マリーナのクラブハウスで、ビデオ講習を受講する。初めて利用する場合は、危険な場所や航行ルートをしっかり聞いておこう。
釣りマニアの那須社長がついているので、期待度満点でクラブ艇に乗船する。なんと、この浮桟橋は古い和船を利用して作られていた。
前島と青島の間の水路部分では、波もなく安全に釣りが楽しめた。人工的な建造物が少ない自然のなかで釣りができるって、本当にすばらしいことだと思う。
浅場でのシロギスねらいで、突然いいアタリが届いた。初めての海域ではなにが釣れるのかわからないため、慎重にやり取りした。
1日目の釣果は、チャリコとカサゴのみで終わった。とはいえ、近場で、しかもシロギス仕掛けでこれらが釣れるということは、本命ポイントに行ければ......と翌日への期待が膨らんだ。
2日目は朝から快晴、ベタナギに恵まれた。瀬戸内海の美しい景色を見ながら、小豆島の福田湾方面へ向かった。
小豆島(福田港)から姫路までを100分で結ぶフェリー〈第八オリイブ丸〉。この航路なら、移動手段としてだけでなく、景色も楽しめていいだろう。
福田沖にある小磯灯台周りは超一級ポイント。ナスボート牛窓マリーナのシースタイルでは、クラブ艇の航行区域最東端となる。
小豆島北東端、静かな吉田湾の奥に位置する「シータイガー・アイランドイン」に上陸してランチ。ここは同エリアのボート乗りには人気の寄港地で、専用の桟橋がある。
青い空、青い海、白い砂浜、緑の芝生......とロケーションがすばらしく、南国リゾートにいるかのような錯覚に陥った。たまには釣り以外にも視野を広げると、ボーティングの楽しみはグンと広がる。
「シータイガー・アイランドイン」のランチはリーズナブルでおすすめ。宿泊施設やバーベキュー設備なども完備している。訪れる際は詳細を問い合わせのこと。
香川県小豆郡小豆島町吉田37-1
TEL:0879-84-2011
http://www.islandinn.jp/
2日目の釣果がコチラ。決してたくさん釣れたわけではないが、釣果とボートフィッシングの楽しさは正比例しないことを実感した。つまり、この釣果でも十分楽しめたということ。
小豆島北側ほぼ中央部にある、「みなとオアシス大坂城残石記念公園」にもクラブ艇で寄港した。海からの訪問者向けに格安(1艇10円程度)で浮桟橋が利用できる。
香川県小豆郡土庄町小海甲909-1
TEL:0879-65-2865
大坂城残石記念公園内に設置されていた「石と歴史の里」の案内板そのものが、石を彫って造られたものだった。資料館や軽食コーナー、おみやげコーナーもある。
釣果カレンダー
瀬戸内海のほぼ中央部に位置する岡山県・牛窓周辺は、外海から潮流によって豊富なエサが運び込まれるため、一年を通して多くの魚種がねらえる。特に秋はマダイやスズキが釣れ盛り、多くのボートアングラーが海へ繰り出す。また、島々に囲まれ風波の影響を受けにくい水路部分にも魚は多く、安全に釣りが楽しめるエリアがたくさんあるのも大きな魅力。国内でも有数の、ボート釣りが盛んなエリアである。
牛窓のフィールドマップ
付近一帯は前島、青島、黄島、黒島などによる多島海域であり、牛窓瀬戸と呼ばれる、変化に富んだ潮流に特徴がある。クラブ艇を初めて利用する際は、危険箇所や航行ルートをしっかり把握してから出航しよう。航行区域には小豆島の北側海域まで含まれるが、波高1メートルを超える場合には、近場での釣りになる。とはいえ、牛窓周辺も速潮と複雑な海底地形の恩恵から、十分に楽しめるポイントがたくさんあるので安心してほしい。
夕食に立ち寄った「キッチンかいぞく」で、名物「えび飯」を食べた。真っ黒い焼き飯で、見た目以上のおいしさ(写真はえび飯オムライス)。
岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓4173
TEL:0869-34-4741
出航前にエサの調達で立ち寄った、マリーナ近くの「石井釣具店」。ここではアオイソメを調達した。
岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓3911-51
TEL:0869-34-2369
牛窓の海沿いに立つ、白亜のリゾートホテル「リマーニ」。専用桟橋もあり、宿泊者が予約をすれば、マリーナからボートで迎えに来てくれる。
岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓3900
TEL:0869-34-5500
http://www.limani.jp/
オリーブ園に上っていく坂の途中にある、「牛窓ジェラート工房コピオ」にて。自家農場の搾りたてミルクを使った絶品ジェラートで、那須社長もイチ押しの牛窓スイーツ。
岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓479-4
TEL:0869-34-6446
ナスボート牛窓マリーナ
前身は農機具販売業で、ボートを扱い始めてすでに45年にもなる老舗マリーナ。約50艇の艇保管と艇販売、メインテナンスがメインの業務で、なかでも中古艇の取り扱いは国内有数の販売実績を誇る。日本のエーゲ海ともいわれる風光明媚な牛窓にあるので、ぜひ観光もかねてシースタイルを利用してみてはいかがだろう。
■交通アクセス
山陽自動車道備前IC→岡山ブルーライン蕃山(しげやま)IC→岡山ブルーライン邑久(おく)IC→県道39号線で牛窓へ
■問い合わせ先
岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓4180
TEL:0869-34-2498
営業時間:午前9時~午後6時(10~3月は午後5時30分まで)
定休日:火曜日(10~3月は火曜日、第3月曜日)
http://www.nasu-boat.com/