Vol.43 香川県・瀬戸内海
全国のマリーナでボートをレンタルして釣行脚。今回は香川県・瀬戸内海のブリ、マダイほかをご紹介。
この記事はヤマハマリンクラブ・シースタイルのレンタルボートでの釣行です。
荒れやすい冬場も出航エリアを確保しやすい、瀬戸内海は香川県の「瀬戸マリーナ」を釣査!ご当地釣法に挑む!ボート倶楽部2014年3月号 [ 文:小野信昭 / イラスト:名取幸美 ]
所変われば釣りも変わる
全国約140カ所のホームマリーナを利用できることが、ヤマハマリンクラブ・シースタイルの大きな魅力だ。今回の取材は12月上旬で、海が荒れやすいという懸念があったので、冬場でも比較的穏やかな瀬戸内海を候補に挙げた。
瀬戸内海にも多くのホームマリーナが存在するが、本連載でまだ訪問していない、讃岐うどんで有名な香川県に決定。瀬戸マリーナにお世話になることになった。
早速、最近の釣況を聞こうと瀬戸マリーナへ電話した。
「最近の釣況はいかがですか?」
「このところブリが釣れているんですよ」
「ということは、ジギングですか?」
「いいえ、生きたコノシロをエサに、泳がせ釣りでねらいます。ジギングでも釣れないことはないですが、この時期は、みなさん泳がせ釣りで結果を出しています」
と、瀬戸マリーナ代表の井上雅登さんが答えてくれた。
泳がせ釣りでの青ものねらいは経験済みだが、コノシロをエサにするというのは聞いたこともなければ、もちろんやったこともない。
所変われば、釣り方が変わるのは当然かもしれない。全国のホームマリーナで、各地に根付いた釣法に挑戦するのも、趣があって面白い。
「わかりました。コノシロを使った泳がせ釣りに挑戦させてください。それとタイラバーでの釣況はいかがですか?」
「時期的にタイラバーの情報は少ないのですが、可能性は十分にあると思います」
瀬戸内海の四国側と聞いて、私がすぐに思い浮かべたのは、私の大好きな釣法の一つであるタイラバー釣法だ。本場の瀬戸内海でできると思うと、本当にワクワクした。
ということで、取材ではブリとマダイをねらうことに決定。
生きエサは25センチ!
12月上旬の取材当日、空は晴れていたが、冷たい北風が吹く寒い朝だった。寒ブリをねらうのだから寒くて当たり前......と、自分に言い聞かせ、マリーナの門をたたく。
あいさつもそこそこに、航行区域の注意点、使用する仕掛けについて、井上さんが説明してくれた。
「生きエサとして使用するコノシロが30センチ級なので、仕掛けはゴッツくなります」と、思いのほか大きい仕掛けを使うので驚いた。確かに10キロ級のブリなら当然かも......。気持ちが高ぶる。
午前9時、井上さんと長男の雄貴(ゆうき)君(高1)とともに出航。まずはエサのコノシロを釣るため、マリーナから5分ほどの、粟島沖へ向かった。
魚探に水深20メートルの海底から宙層にかけて濃い反応が出ていて、
「この反応がコノシロです。仕掛けを底まで落としてください」
と、井上さんから合図が出る。
シャクリながらリールを巻くと、すぐにガツンという衝撃が届き、ロッドが曲がる。釣れ上がったのは25センチ級のコノシロだ。このサイズの魚を泳がせ釣りのエサとして使用するというだけでもワクワクする。
井上さんが魚探を見ながら操船し、雄貴君と私が釣る係。この連携プレーが功を奏し、わずか30分で、20尾ほどをイケスにキープできた。
瀬戸内海は自然の景色と人工物の造形の両方を楽しめる。香川県と岡山県とをつなぐ瀬戸大橋は、完成から25年が経過している。
さぁ、次は本命のブリだ。ポイントは瀬戸大橋をくぐり抜けた坂出港方面で、すでに多くのボートが浮かんでいた。
早速、先着のボートに交じって、コノシロを泳がせた。しかし、時合が終わっていたのか反応は鈍い。泳がせ釣りが??待ち?≠フ釣りなので退屈するのか、雄貴君はすぐに得意のルアーキャスティングに切り替えた。私もジギングを試みたりと暗中模索したが、時間だけが経過していった。
3時間ほど粘ってみたが、結局どの釣法にもブリからのアタリはなく、北風が強まったこともあり、ブリのポイントをあとにした。
風が強くなっても、どこかしらの風裏で釣りができるのが瀬戸内海のいいところ。再び粟島沖へ移動し、タイラバーをやることにした。
ここでも雄貴君はキャスティングに励んでいた。泳がせ釣りやタイラバーのような単調な釣りよりも、アクティブな釣りが好みのようだ。
私が50センチ級のマゴチをゲットしたが、本命のマダイは顔を出さず、1日目の釣りが終わった。
明日こそ頑張って本命をゲットするぞ!その前に腹が減っては戦ができぬ......ということで、夕食は名物の讃岐うどんを食べに向かった。
風が強まったことと、あまりに釣れないのでブリを諦め、ポイントを移動してタイラバーをスタート。
タイラバーに何かが食った。やり取りの最中、時折鋭いツッコミを見せるので、てっきりマダイかと思ったのだが......。
タイラバーに食ってきた50センチ級のマゴチ。さすがにこのサイズともなるといいヒキだ。
潮が勝負の分かれ目
2日目の朝、マリーナで作戦会議。
「今日は潮が動くのが午前中なので、タイラバーは午前中が勝負でしょう」と井上さんが切り出した。
そういえば、瀬戸内海で何人ものボートアングラーに出会ってきたが、その誰もが潮汐表を読み、行動計画を立てていた。ここでは、釣れる時間帯に神経を集中し、釣れない時間帯にだらだらとイトを垂らしたりはしないのだ。午前中でマダイの結果を出してやる!と鼻息も荒く、桟橋へ向かった。
マリーナの周辺には、たくさんのマダイポイントが存在するが、少しでも実釣時間を確保するために、マリーナから近い粟島周辺の実績ポイントを攻めることにした。
まずは前日の夕方に攻めたポイントに入る。井上さんが時計を見ながら、「まもなく潮が左から右へと流れ始めます」と説明してくれた。その言葉通り潮が流れ始め、ボートを潮に乗せて実釣スタート。
おっ、今日の雄貴君はキャスティングをせず、一緒にタイラバーをやることにしたんだ......と、眺めていたら、雄貴君のサオ先に前アタリが届くのを目撃。前アタリに反応することなく一定のスピードで巻き続けていることに感心していたら、サオ先が突っ込んだ。一部始終を見ていた私は思わず、「ヨッシャー! フッキング!!」と叫んでしまった。
やり取りの途中で何度もラインが出されたが、青く美しい海からピンク色のマダイが浮かび上がる。タモに収まった瞬間、真剣だった雄貴君の表情が笑顔に変わった。サイズは50センチ級で、ピンク色の鮮やかなマダイだ。
幸先よく本命のマダイをゲットし、満面の笑みの雄貴君。実は、タイラバーは苦手な釣り方だったとか。
父親である井上さんが、「タイラバーのおもしろさがわかったやろ!」と聞くと、雄貴君は小さくうなずき、とてもほほえましく感じられた。
よし、次は自分の番だと気合を入れたが、そう簡単に釣れないのがこの時期のタイラバー。少しずつポイントを変えて流したり、大きく移動しても状況は変わらず、その後は誰一人アタリがない。
開始から2時間ほどたったころ、ようやく私のサオ先に変化が。「焦りは禁物だ。前アタリがあっても、食い込むまで合わせちゃいけない......」、まるで呪文のように自分に言い聞かせていたせいか、食い込むまでがとても長く感じられた。
十分に引き込まれてから、念押しでアワセを入れると、ストロークの長い縦の突っ込みがロッドに届き、掛かった魚がマダイであると確信!
浅場の強力なマダイのヒキを楽しみながら、雄貴君が差し出すタモに無事収まり、思わずガッツポーズ!雄貴君が釣ったマダイよりもひと回り小さいが、サイズなんてどうでもいい。この食い渋り状況の中、本命に出合えたことが何よりうれしかった。
今回の取材で山岸カメラマンが用意した秘密兵器にて撮影。取り込み直前の魚の様子がバッチリ写っている。
ネットインした瞬間、アングラーは肩の荷を下ろすことができる。私が掛けたマダイは、雄貴君がタモ取りしてくれた。
釣り上げたのは私だが、タイラバーをやりながらも、私が釣りやすいように、適切に操船してくれた井上さんのおかげであることは間違いない。
それ以降はあとが続かず、潮止まりの時間が刻々と迫ってくる。口にはしなかったが、「残るは井上さん......」と振り返ると、雄貴君と私に本命を釣らせることができて、船長としてホッとしているのか、温和な表情を浮かべていた。
そして井上さんの視線の先には、いつのまにかキャスティングをする雄貴君の姿があった。気の向くままに自分に合った釣りを楽しめることが、ボートフィッシングのよさであり、それを親子で実践している井上さんが、実にうらやましい。
正午すぎ、潮が止まった。
「これ以上粘ってもまず釣れませんから、終わりにしましょう」
と井上さん。潮流が釣果に大きく影響するのが瀬戸内海のボートフィッシングだ。「郷に入っては郷に従え」の言葉の通り、井上さんの判断を信じ、納竿とした。
2日目は本命マダイに巡り合うことができた。日本人の誰もが愛してやまない美しさを誇っていた。
瀬戸内海ならではの雰囲気
残りの時間で、瀬戸内ボーティングならではの楽しみ方を井上さんが教えてくれた。ボートで行ける食堂が、瀬戸マリーナからほど近い粟島にあるというのだ。
関東ではなかなか味わえない楽しみ方だし、特に寒い時期は、陸上で休憩しながら食事を取り、体を温められることがうれしい。
粟島に上陸してみると、騒々しい都会とは大きく異なる静けさが待っていた。のんびりしていて、時間が止まっているかのようだ。私はこういった雰囲気が大好きで、ここに住むための働き口はないものか? と、すぐに考え始めてしまう。それほどいい雰囲気が漂っていた。
ル・ポール粟島という宿泊施設で昼食を取る。釣りの途中で気軽に立ち寄れるリーズナブルな料金設定がとてもうれしい。ただし、ボートで訪れる際には、店への事前連絡が必要だ。
食後はマリーナへ向けてボートを走らせた。本命のマダイが釣れたし、瀬戸内海ならではの、のんびりした雰囲気も味わえたし、空腹も満たせたし......、あ~楽しかった。
当連載では、各地のホームマリーナを一つずつ紹介しているが、またしても、再訪問したいところを見つけてしまったなぁ~。そんなことを思いながら、マリーナに帰港した。
【隊長:小野信昭(おの・のぶあき)】
1963年生まれ、神奈川県在住。DAIWAフィールドテスター、FURUNOフィールドテスター、ヤマハマリン塾「ゼロから始めるボートフィッシング講座」の講師を務める。著書に『必釣の極意』(舵社)、共著に『魚探大研究』(同)など。ダイビングの経験も豊富。ウェブサイト「気ままな海のボート釣り」
http://homepage3.nifty.com/miniboat/
【今回のロコ・アングラー】
ロコアングラーとして瀬戸マリーナの代表・井上雅登さん(右)と、長男で高校1年生の雄貴君(左)。
瀬戸マリーナのクラブ艇は、高密度ウレタンとFRPによる一体成形三重構造の「FOAMAP」により、高い剛性と不沈性を実現しているAS-21WB。
ウェイクゲートが装備されているのでウェイクボードもOK。オーニングにより、夏場の釣りも快適そうだ。
115馬力の船外機が搭載されているので、広い航行区域内の大移動も、時間をかけずにできる。
1日目の朝。雲の隙間から美しい光が差し込み、なんとなく釣れそうな予感がしたのだが......。
釣れるコノシロは25センチ級なので、泳がせ用のエサ確保というより、これ自体が楽しい釣りだった。
泳がせ用のエサは"生きのよさ"が命。釣り上げたコノシロはイケスに入れ、水を循環させておく。
井上さんが操船係で、雄貴君と私が釣る係。作業を分担することで、反応を逃すことなく効率よく釣れた。
ブリのポイントには船団ができていた。われわれが到着したときには時合が終わっていたようで、ほかのボートにもヒットはなかった。
泳がせ用のコノシロには、親バリを背掛けに、孫バリは肛門近くに掛けた。それにしてもデカい生きエサだ。
初日の釣果。本命のブリこそ釣れなかったが、コノシロの入れ掛かりは初めての経験だったので、とても新鮮な感覚だった。
夕食には香川県名物・讃岐うどんを食べた。うわさ通りうまかったが、本当にコチラの人は毎食のように食べるのだろうか。
2日目は朝からタイラバー。井上さんは、島々の間の複雑な潮流を詳しく説明してくれた。とにかく潮次第で、釣果が激変するとのこと。
開始早々、雄貴君のロッドが大きく曲がった。何度もラインが引きずり出される、一進一退の攻防が続き、固唾(かたず)を飲んで見守った。
50センチ級の色鮮やかなマダイが浮上し、私がタモ取りした。本命の登場で、誰もが胸をなで下ろした。
私にも待望のアタリが届いた。この少ないチャンスを逃すまいと、慎重にやり取りした。
ル・ポール粟島で昼食をとるため、桟橋に一時係留した。桟橋利用は事前の電話連絡が必要だ。
(問)TEL:0875-84-7878
私は牛丼をチョイス。ボーティングの休憩がてら、内側から体を温められるのは本当にありがたい。
取材後、松山空港へと向かう道中で、瀬戸大橋記念公園に立ち寄った。美しい瀬戸内海の景色と、この巨大な建造物が見事に調和していた。
釣果カレンダー
瀬戸内海は冬場でも比較的海が穏やかなので、年間を通してボートフィッシングが楽しめる。クラブ艇の航行区域内には、深場こそないものの、砂地も岩礁帯も存在するので、ターゲットは豊富だ。なお、ボートフィッシングをする上でのさまざまなローカルルールが存在する。例えば、コマセの使用禁止、マダコ釣り禁止、トローリング禁止、前後2本の投錨禁止など、利用前に、しっかりとマリーナで確認しておきたい。
瀬戸マリーナ周辺のフィールドマップ
荘内(しょうない)半島から坂出港までが主な航行区域。数多くの島が存在するとともに、雄大な瀬戸大橋も間近で見ることができるので、クルージングだけでも十分楽しめる。島々が織り成す複雑な海底地形と潮流によって好漁場が形成され、一級ポイントが多い。また、多少の風が吹いても、風裏となる釣り場を選ぶことができるので、ボートアングラーにとっては魅力的なフィールドだ。
香川県三豊市にある荘内半島は、かつて「浦島」と呼ばれ、浦島太郎の話が実話として今も息づいている。
クラブ艇の利用手続きの際に手渡されたエリアマップ。航行区域内の危険箇所がわかりやすく記されている。
ネットで調べて訪れた讃岐うどんの人気店「大釜うどん」。入店時はすいていたが、次から次へと来客があった。
TEL:0877-62-4624
レストランが入っているル・ポール粟島の本館。リーズナブルな価格で気軽に利用できる。
TEL:0875-84-7878
海員養成学校「国立粟島海員学校」の校舎を保存した記念館。実にノスタルジックだ。
瀬戸マリーナ
瀬戸マリーナは、瀬戸内海に突き出た荘内半島東側の付け根に位置している。43年前に開業し、現在はボート・ヨットの販売、修理、陸上保管などの事業を展開。保管艇は250艇ほどあり、目前が穏やかな瀬戸内海ということもあって、1年中ボーティングを楽しむ人たちでにぎわっている。シースタイルの利用者は約7割がフィッシングで、残りがクルージングとウェイクボートとのこと。
■交通アクセス
電車:JR詫間駅から車で約3分
自動車:高松自動車道三豊鳥坂ICから約10分
■問い合わせ先
香川県三豊市詫間町松崎2825
TEL:0875-83-6123
営業時間:9時~18時
定休日:毎週火曜日
http://www.netwave.or.jp/~y-fuke/
創業43年の老舗、瀬戸マリーナ。豊富な経験に基づいた、海域や海況情報のアドバイスは、実に心強い。
シースタイル担当の井上優子さん。事務仕事だけでなく、活発にヤード内を走り回っていた。元気な女性スタッフがいると、なんだかうれしくなってくる。<
今回使用したタックル
泳がせ釣り、タイラバーともに、6:4調子のロッドに小型電動リールをセット。バッテリーは電源コードが邪魔にならないコードレスタイプを使用した。タイラバーは手巻きリールが主流だったが、小型電動リールの登場により、愛用者が増えてきた。特に操船の必要があるボートフィッシングにおいては有効で、一度使うと手放せなくなる便利さだ。タイラバーの重さは水深と潮流によって使い分けるが、60グラム前後の重さを用意するといい。
今回の取材用に準備してくれたロッドホルダー。シンプルな構造だが、ポイント移動の際に大活躍してくれた。利用時に頼めば貸してもらえるとのこと。